目次
1.休職制度について会社が知っておくべきこと
労働者が何らかの理由で労務の提供が困難となり、欠勤せざるを得ない場合には、休職を検討する必要があります。
休職とは、そのような場合に、労働契約を維持したまま労働者の労働義務を免除する制度です。
会社は、採用に際して「休職に関する事項」を明示する義務を負っていますが(労基法15条、同法規則5条1項11号)、就業規則に必ず定めることまでは要求されていません。
そのため、休職制度を設けるかどうかも会社の自由です。
もっとも、多くの会社では、正社員の長期雇用を前提とし、復職後も会社内にとどめるという目的で休職制度が設けられています。
休職制度は労働者の権利義務に関わる事項であるため、会社として制度を設けるのであれば、就業規則に定めておく必要があります。
そこで、以下では、(1)一般的な休職制度の種類、(2)私傷病休職の注意点についてご説明します。
1-1.休職制度の種類
具体的にどのような休職の種類を定めるかは個々の会社によって異なりますが、一般的な休職の種類としては、以下のようなものがあります。
ア 私傷病休職
私傷病休職とは、業務外の傷病により長期間就労できない場合の休職を指します。私傷病による一定期間の欠勤が私傷病休職の要件とされることが多いといえます。
私傷病休職は、多くの会社で取り入れられていると同時に、復職の可否をめぐって従業員とトラブルになりやすい制度と思われます。
イ 事故休職(私事休職)
事故休職とは、私傷病以外の自己都合による場合で、本人からの申請に基づきなされるものを指します。
本人からの申請があれば当然に休職となる場合と会社が許可した場合に限り休職になる場合とがあります。
ウ 起訴・逮捕・勾留休職
刑事事件で逮捕・勾留、あるいはその後起訴された場合に休職とされるものを指します。
エ 出向休職・留学休職
社命により出向する場合、社内留学制度により留学する場合に休職とする制度を指します。
オ 組合専従休職
労働組合との労働協約等に基づいて組合員が専ら組合業務を行う場合の休職を指します。
カ 公職就任休職
労働者が議員等の公職に就任し、会社業務に支障を来す場合の休職を指します。
1-2.私傷病休職における注意点
多くの場合、「私傷病休職の期間満了時に復職ができない場合には退職する」との規定が設けられています。
そのため、私傷病休職からの復職の可否をめぐって労働者とトラブルになることがあります。
会社としては、私傷病休職について、就業規則に適切な定めを置くことのほか、復職の可否を慎重に判断することが必要となります。
ア 休職期間
休職期間については、6か月から2年の間に設定する場合が多いと思われます。また、復職の可否の判断に時間を要する場合もあるため、休職期間を延長できる定めを就業規則に定めておくとよいでしょう。
さらに、特に精神疾患等を原因として休職した場合、復職後に再び欠勤を繰り返すという事態になることもしばしばみられます。
そこで、復職後に同一または類似の傷病により再度欠勤を繰り返すことになった場合に備えて、休職制度の利用回数制限規定または休職期間の通算規定を置いておくことも考えられます。
イ 休職中の取扱い
私傷病休職からの復職の可否を適切に判断するため、会社は、休職期間中の労働者の健康状態や復職の見込み等を把握しておく必要があります。
そのため、定期的に医師の診断書を提出する旨の規定、必要な場合には会社担当者や会社指定の医師の面談・診察を受ける旨の規定を置いておくとよいでしょう。
その他、休職期間中の賃金、休職期間を勤続年数に算入するか否かについても、就業規則に明記しておくことが望ましいといえます。
ウ 復職時の取扱い
休職事由が消滅すれば復職とするのが原則ですが、私傷病休職の場合、復職できるかどうかについて医学的な判断を伴います。
そのため、復職願提出時に診断書の提出を求めることはもちろん、必要な場合に、主治医から傷病についての情報提供を受けることができる旨、会社指定の医師の診断を命じる旨の規定を定めておくとよいでしょう。
そして、多くの場合、休職期間満了時に復職できないときは、退職とする旨の定めが設けられています。
1-3.私傷病休職からの復職の可否の判断
ここでは、「復職」についての裁判例を踏まえた上で、会社として、どのようにして復職の可否を判断すればよいのかについて説明します。
ア 「復職可能」とは
まず、復職可能とは、「原則として従前の業務を通常の程度に行える健康状態に回復したことを要する」(東京地判平成16年3月26日)とされています。
この裁判例によれば、従前業務が通常に行えない場合、復職は可能だが一定期間の段階的就労を要するなどと判断された場合には、復職を認める必要はないのが原則です。
もっとも、①休職前の業務が通常に行えない場合でも、「労働者が職種や業務内容を限定せずに雇用契約を締結している場合においては、休職前の業務に就いて労務の提供が十全にはできないとしても、その能力、経験、地位、使用者の規模や業種、その社員の配置や異動の実情、難易等を考慮して、配置替え等により現実に配置可能な業務の有無を検討し、これがある場合には、当該労働者に右配置可能な業務を指示すべきである」(大阪地判平成11年10月4日)。
②段階的就労が必要な場合でも、「直ちに従前業務に復帰が出来ない場合でも、比較的短期間で復帰することが可能である場合には、休業又は休職に至る事情、使用者の規模、業種、労働者の配置等の実情から見て、短期間の復帰準備時間を提供したり、教育的措置をとるなどが信義則上求められるというべき」(大阪高判平成13年3月14日)などの裁判例もあります。
上記②の裁判例のいう「比較的短期間で復帰することが可能である場合」という点に関して、ただちに完全な職務遂行ができなくても職務に従事しながら2~3か月程度の期間で完全復職可能と推測できる場合に休職期間満了による退職扱いを無効とした裁判例があります(札幌地判平成11年9月21日)。
イ 会社がすべき対応
① 労働者に対して、主治医の「復職可能である」旨の診断書の提出を命じる。
② 会社の産業医等の専門医師に意見照会を行う。必要があれば、本人の承諾を得た上で、主治医からの医療情報の取得、主治医との面談等も行う。
③ 休職前の業務に通常勤務可能かどうかを判断する。通常勤務可能であれば復職させる。
不可能であれば、④の対応を行う。
④ (1) 配置替え等により現実に配置可能な業務がないかどうかを検討する、もしくは、
(2) 軽減業務等に従事しながら2~3か月程度の期間で完全復職可能が見込めるかどうかを検討する。
配置可能な業務がない、2~3か月程度では完全復職が見込めないということであれば、復職不可とする。
いずれかの方法で復帰が可能な場合は⑤の対応を行う。
⑤ 配置替え、業務軽減措置等を行う場合には、復職後の業務内容等を検討し、労働者と書面で合意する。
復職の可否を判断するために試し出勤を行う場合には、その期間、出社時間、賃金の有無等を検討し、労働者と書面で合意する。
2.懲戒処分を行う企業のために千瑞穂法律事務所ができること
3.休職制度に関するご対応の弁護士費用
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