目次
1.労災制度について会社が知っておくべきこと
労災保険制度(正式名称は「労働者災害補償保険制度」です)は、労働者にとってメリットのある制度であるため、労働者が業務によって疾病、負傷などをした際に申請されることが多くあります。
労災保険給付の申請がされると、場合によっては会社が労働基準監督署との対応をしなければならないことがあるのですが、適切な対応をするためには労災保険制度について知っておく必要があります。
そこで、本記事では労災制度についてご説明します。
1-1.労働基準法上の労災補償制度とは
労災保険制度は、労働基準法上の労災補償制度(労基法75条~88条)の実効性を確保するための制度です。
労働基準法上の労災補償制度は、労働者が業務によって災害を被った場合、使用者に対して損害賠償請求を行うことができる制度ですが
①使用者の過失が要求されていないこと(無過失責任)
②慰謝料は補償の対象にならないこと
③補償は損害全額ではなく平均賃金に対する一定割合とされていること
が特徴です。
無過失責任である点で労働者側にメリットのある制度ですが、使用者に支払能力がない場合には労働者の救済としては不十分なものになってしまいます。
そこで設けられたのが労災保険制度です。
1-2.労災保険制度とは
ア 目的
労災保険制度は、使用者に支払能力がなくとも、業務又は通勤による災害を被った労働者の保護とともに、災害を被った労働者の社会復帰の促進等を図ることを目的にしています。
イ 適用事業
労災保険は政府が管掌し、原則として労働者を使用する全ての事業に適用されます(労災保険法3条)。
このような強制適用事業においては、事業が開始された日に労災保険関係が自動的に成立します。
なお、中小事業主、自動車運送の個人業者、一人親方など労働者を使用する事業ではありませんが、業務実態が労働者と変わらない場合があります。
そこで、このような場合でも労災保険に加入できる制度(特別加入制度)が設けられています(労災保険法33条)。
ウ 労災保険給付の内容
労災保険給付の内容は以下のとおりです。
労災保険給付 | 社会復帰促進等事業の特別支給金等 |
療養(補償)給付 | |
休業(補償)給付 | 休業特別支給金 |
障害(補償)給付 | 障害特別支給金・障害特別年金(一時金) |
遺族(補償)給付 | 遺族特別支給金:遺族特別年金(一時金) |
葬祭給付 | |
傷病(補償)年金 | 傷病特別支給金・傷病特別年金(一時金) |
介護(補償)給付 | |
二次健康診断等給付 |
1-3.業務災害の認定
労災保険給付は、労働者に生じた災害が「業務上」の災害と認められた場合に行われます(労災保険法7条))。
ア 業務上の判断
「業務上」の災害といえるかどうかは
災害が労働関係のもとにあった場合に起こったものであるか(業務遂行性)
業務と傷病等との間に因果関係があるか(業務起因性)
といった点から判断されます。
イ 業務遂行性・業務起因性(事故性傷病)
発生状況が時間的に明確な場合(事故性傷病)、業務遂行性が認められる場合は次の3つに類型化されています。
① 事業主の支配下にありかつ管理下にあって業務に従事している場合の災害
② 事業主の支配下にありかつ管理下にあるが業務には従事していない場合の災害
③ 事業主の支配下にあるが管理下を離れて業務に従事している場合の災害
そして、上記①~③の災害について、業務起因性は以下のように判断されます。
①の場合:事業所内で、労働者が所定の業務に従事中に事故が発生した場合、所定労働時間内か所定内・所定外時間外労働中かを問わず、業務起因性が推定されます。
②の場合:事業所内であったとしても、休憩時間中に発生した場合は、特段の指示があった場合や施設の不備を原因とする事故の場合等を除き、業務起因性が否定されることが多いといえます。
③の場合:外回りの営業、出張など、事業所外だが労働者が使用者の支配下にあって業務に従事していると評価できる場合は、原則として業務起因性が推定されます。
ウ 職業病(非事故性傷病)
職業病(非事故性傷病)とは、労働者がその健康を害する原因となる有害性をもつ業務に従事した結果、疾病が発症した場合で、発生状況が時間的に明確でないものをいいます。
有害性をもつ業務とそれによる疾病については、「職業病リスト」に例示されています(労基法75条2項、労基法規則35条の別表1の2)。
職業病(非事故性傷病)については、列挙された業務に従事していたこと、対応する疾病に罹患したこと、有害因子への曝露と発症時期・症状の経過が医学的に矛盾しないことが認められれば、業務起因性が推定されます。
エ 過労死
過労死とは、業務による精神的・肉体的負担が原因となって死亡することをいいます。
過労死の労災認定は、厚生労働省が通達(平成13年12月12日基発1063号、最終改正平成22年5月7日基発0507号第3)で示した基準に即してなされます(ただし、基準は見直される場合があります)。
この通達によると、過労死について労災認定がされるかどうかは、
① 発症直前から前日までの間において、発生状態を時間的及び場所的に明確にし得る異常な出来事に遭遇したかどうか、
② 発症に近接した時期(発症前おおむね1週間)において、特に過重な業務に就労したかどうか、
③ 発症前の長期間(発症前おおむね6か月間)にわたって、著しい疲労の蓄積をもたらす特に過重な業務に就労したかどうか
を考慮し、業務による明らかな過重負荷を受けたことにより発症した脳・心臓疾患に該当するかにより判断されます。
オ 過労自殺
こちら(←ここに別記事のリンク)の記事をご参照ください。
1-4.通勤災害制度
ア 目的
通勤途中の災害は個人の努力では完全に予防することができないものである上、通勤は労務の提供と密接な関連性を有するものであるにもかかわらず、労働基準法上の労災補償制度(労基法75条~88条)では補償されないため、労働者の保護に欠けるところがあります。
そこで、労災保険制度では通勤災害についても補償の対象とされています。
イ 給付内容
具体的な給付内容は上記1-2.ウと同様です。
ウ 通勤災害の認定
労災保険法における通勤とは、就業に関し
①住居と就業場所との往復
②就業場所から他の就業場所への移動
③①に先行又は後続する住居間の移動を合理的な経路及び方法により行うもの
をいいます。
通勤災害は上記のとおり労災保険給付の対象になりますが、業務外での災害となるため、解雇規制等は及びません。
1-5.時効
労災保険給付の時効については以下のとおりです。
保険給付の種類 | 起算点 | 時効 |
療養(補償)給付 (療養の費用の請求) | 療養に要する費用を支払った日の翌日 | 2年 |
休業(補償)給付 | 療養のため労働することができないため賃金を受けない日ごとにその翌日 | 2年 |
障害(補償)給付 | 傷病が治った日の翌日 | 5年 |
遺族(補償)給付 | 被災労働者が死亡した日の翌日 | 5年 |
葬祭料、葬祭給付 | 被災労働者が死亡した日の翌日 | 2年 |
傷病(補償)給付 | 政府の職権決定により支給されるため時効の問題は生じない | ― |
介護(補償)給付 | 介護を受けた月の翌月の1日 | 2年 |
1-6.不服申立て
労災保険給付に関する決定に不服がある場合は審査請求を、当該審査請求に対する処分に不服がある場合には再審査請求をすることができます(労災保険法38条1項)。
不服申立期限は、原則として、原処分があったことを知った日の翌日から起算して3か月以内(平成28年4月1日以降に決定書謄本の送付を受けた場合。それ以前に送付を受けた場合は60日以内)です。
審査請求、再審査請求にも不服がある場合、取消訴訟の提起をすることができます(不服申立前置主義。労災保険法40条)。
1-7.労災保険と民事賠償請求
労災が発生した場合、労災保険給付がなされれば給付額の限度で使用者は損害賠償責任を免れます(労基法84条2項類推適用)。
しかし、労災保険給付では慰謝料は填補されないこと、その他の損害についても労災保険給付のみでは十分に填補されないことがあるため、労災保険給付がなされても被災労働者や遺族が使用者に対して損害賠償請求を行うことがあります。
被災労働者や遺族からの請求の根拠としては、不法行為責任(民法709条、715条、717条など)、債務不履行責任(労働契約法5条、民法415条)、運行供用者責任(自動車損害賠償保障法3条)が考えられますが、いずれの場合も使用者が事故の発生に備えて必要な安全措置を講じていたかが重要になります。
必要な安全措置とは、例えば
① 労働安全衛生法や労働安全衛生規則で義務付けられている危険や健康障害を防止するための措置
② 労働者が長時間労働にならないような勤務形態、給与体系を整備すること(京都地判平成22年5月25日)
③ 労働者の健康状態の悪化に対する負担軽減措置(最判平成12年3月24日)
④ ストレスチェック(こちら(←別記事のリンク)の記事をご参照ください)
など、労働者の生命・身体を危険から保護するための措置をいいます。
2.会社がすべき対応
会社としては、労働者から労災保険給付の申請がなされ、当該災害が業務災害と疑われる場合には、速やかに業務災害に該当するかの判断要素(上記1-3.をご参照ください)に該当する事実関係の確認、当該事実関係を証明する資料の確保を行っておくべきでしょう。
業務災害が疑われる場合には、労働基準監督署との対応も必要になるかと思います。この対応において、労働基準監督署は会社に対して面談や各種資料の提出を求めてくるでしょう。
会社としては、労働基準監督署に対して、適切な事実関係の報告及び資料の提出をしなければなりませんが、適切な対応を行うためにも、どのような要素を考慮して業務災害の認定がなされるのかを把握しておく必要があります。
3.労災保険申請された企業のために千瑞穂法律事務所ができること

4.労災保険申請に関するご対応の弁護士費用
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