経営者の皆さまは,インターネット上に大切な会社の悪口を書かれたご経験はありませんか?
近年,インターネット上のウェブサイト,アフィリエイトサイト,匿名掲示板,SNS(ソーシャルネットワーキングサービス)上において,会社に対する名誉毀損,虚偽の事実,ネガティブな情報,誹謗中傷と評価できる書き込みが増加しております。
このような匿名性の威を借りた無責任な発言を放置していると,会社のレピュテーションリスクとなるおそれや,いわゆる炎上が発生し,甚大な苦痛を受けるおそれがあります。
ここでは,インターネット上に会社又はその従業員に対して上記のような投稿がされた場合にどのような対処が可能か,その方法をご説明します。
目次は次のとおりです。誹謗中傷・炎上を予防するための対策は目次2を,誹謗中傷・炎上が起こってしまった場合の対応については目次3以下をご参照ください。
目次
1.全体像の解説
1)インターネット上の誹謗中傷に対する対応
インターネット上において誹謗中傷等の権利侵害が生じた場合の対応としては,以下の2つが考えられます。
①問題となっている投稿を削除する
②当該投稿を行った相手に対して責任追及をする
以下,それぞれについて解説します。
(2)①問題となっている投稿を削除する
問題となっている投稿を削除するためには,以下の順序で動くことになります。
ア 当該投稿がされている場所の管理者を特定する
問題となっている投稿を削除することができるのは,当該投稿が発信されているシステムを管理する者となります。当該投稿を行ったものが削除する権限を有するわけではありません。そこで,まずは管理者が誰であるかを調査し,その者に対して削除を求めていくことになります。
イ 管理者に対する削除請求の方法
・オンラインによる方法
サイトによって異なり,フォームによる依頼やメールによる依頼等,様々な方法があります。
・送信防止措置依頼書による方法
テレコムサービス協会プロバイダ責任制限法ガイドライン等検討協議会の「送信防止措置依頼書」を利用する方法です。
・削除仮処分の方法
裁判所に対して人格権侵害に基づく差止請求権を被保全権利として削除の仮処分を申し立てる方法です。
(3)②当該投稿を行った相手に対して責任追及をする
ア 相手方の特定
インターネット上の書き込みは匿名で行われることが多く,直ちに相手方を特定することは困難です。そこで,以下のような流れで相手方の調査を行います。
① ウェブサイト管理者に対して投稿に使用されたIPアドレスの開示を求める
② IPアドレスを取得後,当該IPアドレスを管理しているプロバイダを特定する
③ 当該プロバイダに対して,当該投稿がなされた時間に当該IPアドレスを使用していた者を確認する
①IPアドレスの開示請求
相手方の特定は,IPアドレスの開示を求めることから始まります。
具体的な方法としては,オンラインによる方法,テレコムサービス協会プロバイダ責任制限法ガイドライン等検討協議会の「発信者情報開示請求書」を用いる方法,発信者情報開示請求書による方法及びIPアドレス開示仮処分の方法が考えられます。
②接続先プロバイダの特定
IPアドレスを特定したとしても,それだけで相手方の住所氏名が判明するわけではありません。特定したIPアドレスから,ウェブ上の「whois」等のサービスや弁護士会照会を用いて②接続先プロバイダを特定する必要があります。
③相手方の氏名住所を特定
接続先プロバイダを特定した後は,発信者情報開示請求書による方法又は住所氏名の開示訴訟による方法によって相手方の氏名住所を特定していくことになります。
原則として,①及び③を合わせて2回の発信者情報開示請求が必要です。そのため,最終的に投稿者の住所及び氏名が判明するまでは半年以上かかることが通常です。インターネット上に問題のある書き込みを発見した場合には迅速に動き出すことが肝要です。
イ 投稿者に対する具体的請求
投稿者の氏名及び住所を特定した後は,以下のような請求を裁判上または裁判外で行うことが考えられます。
①損害賠償請求
②刑事告訴
③従業員による投稿であれば懲戒処分等
ウ ①損害賠償請求
投稿を行った人物を特定した後は,その者を相手に任意の交渉又は裁判によって損害賠償請求を行うことになります。任意交渉のメリットとしては早期かつ柔軟な解決が可能な点にあります。他方で訴訟のメリットとしては相手方が交渉に応じない場合にも有用であり,最終的に強制執行が可能な点にあります。いずれにしても,当該投稿が違法性を有する投稿であることを主張することになります。当該投稿が違法性を有する投稿か否かについては,この分野に詳しい弁護士に相談されることが望ましいでしょう。
エ ②刑事告訴
刑事告訴とは,犯罪の被害者等が犯人の処罰を求めて犯罪事実の申告を捜査することを言います。犯人への処罰を求める意思表示が行われる点で被害届と異なります。
インターネット上に誹謗中傷や虚偽の内容の投稿がなされた場合に対象となりうる犯罪としては,以下が考えられます。
脅迫罪(刑法第222条)
名誉毀損罪(刑法第230条第1項)
侮辱罪(刑法第231条)
信用毀損罪(刑法第233条前段)
偽計・威力業務妨害罪(刑法第233条,234条)
もっとも,当該投稿の内容の観点から犯罪とはいえない場合もあります。また,立証の難易及び公訴時効の観点から,必ずしも事件化されるとは限りません。
この点については,どのような被害に遭われているか専門的知識を有する弁護士にご相談いただき,犯罪に該当するか否かの判断を仰ぎ,告訴状の作成及び警察への提出をご依頼されることが望ましいでしょう。
オ ③従業員に対する懲戒処分等
例えば,従業員によっていわゆるバイトテロ,会社の悪口,会社の機密情報などがSNS上に投稿されていた場合には,当該従業員に対する対策を検討する必要があります。会社内の就業規則等でSNSへの投稿に関して懲戒処分を行う旨を明示しておくべきでしょう。
(4)証拠保全の重要性
上記の削除請求及び相手方に対する損害賠償請求を行うためには,問題のある投稿を記録・保存しておくことが必要です。投稿場所によっては投稿の保存期間が数ヶ月しかない場合や投稿者が自由に削除することができる場合があり,このような場合には当該投稿を確認することができず,上記請求が行えなくなるリスクがあります。
そのため,投稿が削除される前に迅速に証拠を保全しておくことが重要です。
2.誹謗中傷・炎上の予防策を講じる
従業員による炎上リスクのある言動として,例えば①従業員の顧客に対する不適切な対応,②従業員又は既に退職している元従業員によるSNS上の不適切な投稿が考えられます。
(1)①従業員の顧客に対する不適切な対応
顧客への不適切な対応を予防するためには,顧客対応マニュアルを整備する等,従業員教育を進めることが重要です。
(2)②従業員又は元従業員による投稿
SNSへの不適切な投稿については,SNSは気軽に投稿できるツールであることから従業員が不適切な投稿をする精神的障壁が低いといえます。そこで,SNSに関するガイドラインや不適切な投稿を行ったことが判明した場合の懲戒規定等を設けることが重要です。
一般的には,就業規則には,「社内の秩序及び風紀を乱したとき」には懲戒事由に該当するとしている会社が多いかと思います。しかし,これらの規定は抽象的にすぎるため,これを根拠に懲戒処分を行うことは後に争われるリスクがあります。そこで,SNS上の書き込みについて懲戒処分を行うことがあることを明示しておくべきでしょう。また,元従業員による不適切な投稿を防ぐために,退職時に誓約書等によって守秘義務を負わせることも考えられます。
3.誹謗中傷・炎上を収束させる
誹謗中傷・炎上への対応を行っていたにもかかわらず,会社従業員が不適切な言動を起こしたことによってインターネット上で会社及び当該従業員に対する誹謗中傷・炎上が生じた場合にはどのように対応すればよいでしょうか。
(1)事実調査
誹謗中傷・炎上を発見したら,まずは事実関係を適切に把握する必要があります。具体的には,いつ,誰が,どこで(どの媒体で),どのような言動を行ったのかについて,5W1Hを中心に把握します。インターネット上に記載されている事実関係に誤りがないか,正しい部分があるかについて,当該従業員に丁寧に確認していくべきでしょう。
(2)事実調査後の対応
当該誹謗中傷・炎上に対する対処としては,放置する,反論するといった選択肢もありますが,これらの行動は誹謗中傷・炎上に油を注ぐ結果となりかねません。そこで,謝罪→事実関係の説明→再発防止策の説明→当該従業員に対する処分及び処分したことの発表,といった流れで対処することが望ましいといえます。
4.インターネット上なされた投稿に対して千瑞穂法律事務所ができること
(1)削除請求・投稿者に対する損害賠償請求
会社又は従業員がインターネット上で誹謗中傷を受けた場合であっても,それを根拠として当該書き込みの削除又は投稿者に対して損害賠償請求を請求するためには,それぞれの請求が認められるための要件を満たすか否かの検討が必要なため,専門知識を有する弁護士によって対応することが望ましいです。
インターネット上の書き込みに関してどのような対応がとれるかについて,まずはお気軽にご相談ください。
(2)炎上予防・炎上対応
当事務所は企業法務に特化した事務所として,設立以来,会社の各種規程を含めた体制整備及び問題社員対応として問題社員に対する事情聴取及び処分の検討を行ってまいりました。
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これらのノウハウを生かして,会社の炎上を予防するための従業員に対する啓蒙としてのSNSガイドライン,顧客対応マニュアルの整備を行います。また,問題のある投稿を行った従業員に対して懲戒処分を課すための就業規則の修正等をご提案します。さらに,万が一炎上が発生した場合には迅速かつ適切に事実調査を行う等させていただきます。
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