不幸にも従業員の方が業務に関連して亡くなられた場合、労災保険の支払いでは足りないケースや刑事責任を追及されるケースがあります。
そこで、以下では、従業員などが事故で亡くなった場合に会社や経営者の方が知っておくべきことをご説明します。
本記事の目次は次のとおりです。
目次
1.死亡事故が起きてしまった場合の責任の種類
不幸にも業務に関連した死亡事故が起きてしまった場合、誰がどのような責任を負うのでしょうか。
多くのケースで生ずる責任としては、①刑事責任、②民事責任であり、状況によっては、③行政責任(業務停止命令など)や④社会的責任(マスコミ報道・SNSなどによる信用低下)が問われることもあります。
以下では、①刑事責任、②民事責任を中心に、誰がどのような責任を負うのかを詳しくご説明します。
2.刑事責任
2-1.労働安全衛生法等に基づく刑事責任
業務に関連した事故が発生した場合、労働基準監督署が労働安全関連法規(労働安全衛生法、労働安全衛生規則等)の違反の有無を調査することになります。
労働安全関連法規では、業務上の事故を回避するために、非常に多くのルールが定められています。
あまりに多くのルールが存在するため、ここでそのすべてをご紹介することはできませんが、死亡事故が発生してしまった場合に問題となりうる義務は、作業主任者の選定等に関する義務(労働安全衛生法第14条)や機械等による危険防止義務(同法20条)、墜落等による危険の防止義務(労働安全衛生規則第518条以下)などです。
調査の結果、これらの義務違反が確認されれば、その義務違反の内容に応じて、
・1年以下の懲役または100万円以下の罰金
・6月以下の懲役または50万円以下の罰金
・50万円以下の罰金
などが科されることになります(労働安全衛生法第115条の3以下)。
参考として、作業主任者の選定等に関する義務違反及び機械等による危険防止義務違反の罰則は次のとおりです。
義務違反 | 罰則 | 条文 |
作業主任者の選定等に関する義務違反 | 6月以下の懲役又は50万円以下の罰金 | 労働安全衛生法第14条 同法第119条 |
機械等による危険防止義務違反 | 6月以下の懲役又は50万円以下の罰金 | 労働安全衛生法第20条 同法第119条 |
なお、労災事故を労働基準監督署に報告しなかった場合(いわゆる労災隠し)、報告しなかったこと自体が刑罰の対象になりますので(同法第100条、第120条)、しっかりと報告は行っておく必要があります。
2-2.刑法に基づく刑事責任
刑法第211条は、「業務上必要な注意を怠り、よって人を死傷させた者は、五年以下の懲役若しくは禁錮又は百万円以下の罰金に処する。重大な過失により人を死傷させた者も、同様とする。」と定めています。
2-1で記載した労働安全関連法規上の義務に違反すれば、基本的には「業務上必要な注意を怠」ったと判断される可能性が高いため、会社は基本的には刑法第211条に基づく責任も負うことになります。
なお、刑法上の「業務上必要な注意」については、労働安全関連法規上の義務に限定されている訳ではありません。
事故が予想できる状況にあったか、その事故を回避することができたかなど個別の事情次第では、より高度かつ厳格な注意義務があったとされ、その観点から刑法上の責任を問われることもあり得ます。
3.民事責任
労働者の死亡事故が発生した際、会社は安全配慮義務違反や不法行為に基づく責任を負う可能性があります。
もっとも、労災による死亡事故の場合、労災保険給付が行われるため、損害の一定範囲については労災保険給付として支払われることになります(労災保険給付でカバーされない損害があることにご注意ください)。
そこで、以下では、労災保険給付及び民法上の損害賠償について順にご説明します。
3-1.労災保険給付について
ア 死亡事故の場合の保険給付の内容
業務により労働者が死亡した場合、労働者災害補償保険法に基づき、必要な保険給付や特別支給金の給付が行われることになります。概要は次のとおりです。
納付名 | 内容 |
①遺族(補償)年金 遺族特別支給金 遺族特別年金 | 遺族1人の場合:原則、給付基礎日額の153日分 2人の場合:給付基礎日額の201日分 3人の場合:給付基礎日額の223日分 4人以上の場合:給付基礎日額の245日分 300万円 遺族1人の場合:原則、算定基礎日額の153日分 2人の場合:算定基礎日額の201日分 3人の場合:算定基礎日額の223日分 4人以上の場合:算定基礎日額の245日分 |
②遺族(補償)一時金 遺族特別支給金 遺族特別年金 | 給付基礎日額の1000日分 300万円 算定基礎日額の1000日分 |
葬祭料等 | 31万5000円に給付基礎日額の30日分を加えた額または給付基礎日額の60日分のうち、いずれか多い金額 |
イ 労災保険給付について会社が注意すべき事項
労災保険による給付は、事業主が労災申請するか、労働者側が給付の申請手続を行う必要があります。
そして、会社が労災申請していない場合、労働者側から労働基準監督署に提出する書面への押印を求められることがあります。
具体的には、死亡事故の場合、遺族補償年金支給請求書の「負傷又は発病年月日」、「災害の原因及び発生状況」、「平均賃金」、「厚生年金保険等の受給関係」といった事項について、証明する旨の押印を求められる場合があります。
このうち、「平均賃金」や「厚生年金保険等の受給関係」を証明することには特に問題はありませんが、「負傷又は発病年月日」、「災害の原因及び発生状況」については注意が必要です。
というのも、「負傷又は発病年月日」、「災害の原因及び発生状況」について、会社としては分からないにもかかわらず証明を行ってしまった場合、事後的な訴訟等で不利に作用する可能性があるからです。
そこで、証明できない部分については、斜線をしたうえで、別紙として会社として把握している事情を説明するという対応が望ましいでしょう。
3-2.民法上の損害賠償について
ア 労災保険給付と損害賠償との調整
上記の労災保険給付は、被災した労働者や遺族の損害すべてを填補するものではありません。
会社(事業主)は、労災保険給付で填補されない損害について、民事上の損害賠償責任を負担することになります。
以下、どのような保険給付が填補(控除)の対象となるかをご説明します。
① 治療費、休業補償、逸失利益等に対する既支給の保険給付
被災労働者又はその遺族が労災保険給付を受けた場合、支払われた保険給付額の限度で、会社(事業主)が支払うべき損害賠償の額から控除されます(労働基準法84条2項類推適用)。
そこで、治療費、休業補償、逸失利益等に対する保険給付が行われた場合、これらは損害賠償額から控除されることになります。
ただし、死亡による逸失利益等一部分しか支払われない給付もあるため、会社(事業主)は差額については別途賠償する必要があります。
また、事業主が支払うべき慰謝料や入院雑費、付添看護費等は労災保険給付の対象とならないため、別途賠償する必要があります(最判昭和62年7月10日参照)。
② 将来の年金給付
死亡事故の場合、保険給付が年金という形で行われることがありますが、既に支給された額等のみが控除され、将来支給される予定の額については基本的に控除が認められていません(最判昭和52年10月25日参照)。
ただし、将来支給される予定の額に関しては、遺族(補償)年金の「前払一時金」(給付基礎日額の1000日分)の最高限度額までは損害賠償の支払いを猶予され、現実に前払一時金又は年金が支払われたときは、その給付額の限度で支払いを免除されることになっています(労災保険法64条)。
③ 特別支給金
労災保険では、労働福祉事業の一環として、特別支給金が給付される場合があります。
もっとも、こうした特別給付金は、損害の填補を目的とするものではないため、将来はもちろん、既に支給された額についても控除が認められていません(最判平成8年2月23日参照)。
④ その他
労災保険の話ではありませんが、支給を受けることが確定した遺族厚生年金も控除の対象になります(最判平成16年12月20日参照)。
イ 会社が損害賠償責任を負う場合
これまでにご説明したように、労災保険給付は、被災した労働者や遺族の損害すべてを填補するものではないため、会社(事業主)は別途損害賠償責任を負担することがあります。
以下では、どのような場合に損害賠償責任を負担することになるのかご説明します。
はじめに、労災給付がなされているからといって、常に会社が損害賠償責任を負う訳ではありません。
というのも、労災給付の支給は行政庁の判断で決定されるところ、裁判所が被災労働者の死亡と業務との関連性を否定することはあるからです。
やや細かな話になりますが、会社が損害賠償責任を負うのは、会社に不法行為(民法709条、715条、717条)や安全配慮義務違反(労働契約法5条、民法415条)が認められる場合です。
不法行為や安全配慮義務については、そのいずれの場合であっても、会社が事故の発生に備えて必要な安全対策を講じることができていたか否かが問題となり、基本的には大きな違いはありません。
安全対策が講じられていたか否かについては、一次的には労働安全衛生法や労働安全衛生規則、その他の労働安全衛生法規、通達などが定める安全措置を遵守していたかが問題となります。
もっとも、安全配慮義務は、こうした明文で定められている内容に限定されず、実際の職場環境に応じて、労働者の生命及び身体を危険から保護するために必要な措置が広く含まれると考えられているため、注意が必要です。
会社としては、上記安全配慮義務が尽くされていない場合に損害賠償責任を負うことになります。
ウ 損害賠償の相場
死亡事故の場合に問題となる損害賠償の相場は次のとおりです。
なお、具体的な金額は、入院をされたか、亡くなった労働者の収入、年齢、一家の支柱であったかなど個別具体的な事情によって左右されるため、以下の記載は一例としてご参考にしていただければと思います。
4.従業員などが事故で亡くなった場合に千瑞穂法律事務所ができること
また、労働基準監督署が調査に入った場合や刑事事件として立件された場合、千瑞穂法律事務所が法的アドバイスをさせていただくとともに、必要に応じて直接労働基準監督署や警察、検察の方とお話をするという対応も行っております。
さらに、民事事件として会社が損賠賠償請求を受けた場合などには、千瑞穂法律事務所が代理人として活動し、会社や経営者の方の立場に立った任意交渉や訴訟対応を行っております。
なお、千瑞穂法律事務所がサポートを行う場合、ご相談は事故後早ければ早いほど有効なアドバイスができることが多いです。
というのも、前述のとおり労災申請の書類などで不適切な記載をしてしまった後や遺族の方との対話の後の場合、既に取り返しがつかない状況になってしまっていることがあるからです。
千瑞穂法律事務所は会社側の労働問題に強い法律事務所ですので、お気軽にご連絡いただければと思います。
5.労災に関するご対応の弁護士費用
初回ご相談は無料です。その他弁護士費用についてはこちらをご覧ください。
6.ご相談の流れ
千瑞穂法律事務所に企業法務にまつわるご相談や各種お困りごと、顧問契約に関するご相談をいただく場合の方法をご説明します。
【1】 お電話の場合
「082-962-0286」までお電話ください。(受付時間:平日9:00〜17:00)
担当者が弁護士との予定を調整のうえ、ご相談日の予約をおとりします。
【2】 メールの場合
「お問い合わせフォーム」に必要事項をご入力のうえ、送信してください。(受付時間:年中無休)
送信いただいた後に担当者からご連絡し、ご相談日の予約をおとりします。
(ご相談時刻:平日9:30〜19:00)
※ 夜間や土日のご相談をご希望のお客様については、できるかぎり調整しますのでお申し出ください。
見積書をご確認いただき、ご了解いただいた場合には、委任状や委任契約書の取り交わしを行うことになります。
この場合、当該案件について電話やメールによるご相談が可能です。
進捗についても、適時ご報告いたします(訴訟対応の場合、期日経過報告書をお送りするなどのご報告をいたします)。
(1)死亡逸失利益
これは「事故があったために、本来得られるはずだったのに得られなくなった収入」であり、一般的には67歳までに稼げたであろう収入から生活費等を控除した金額です。
算定方式としては、「基礎収入額×(1-生活費控除率)×就労可能年数に対応するライプニッツ係数」となります。
上記はやや複雑な算定式ですが、500万円の収入のある妻子持ちの30歳の労働者が亡くなった場合、おおよそ7700万円程度が死亡逸失利益の相場となります。
(2)死亡慰謝料
これは、死亡したこと自体に基づく損害です。
一家の支柱であったか、単身者であったかなどが考慮されますが、2000万円~2800万円が一応の目安となります。
もっとも、個別具体的な事情によって増減されます。
②遺族の方の損害
これは、遺族の方固有の損害です。遺族の方が妻や子、ご両親などどのような立場かなどの個別具体的な事情に左右されますが、100万円~300万円が一応の目安といえるでしょう。