高年齢者雇用安定法が改正されたことに伴い、主要な改正点および注意点について、会社が知っておくべきことをご説明します。
目次
1.改正高齢者雇用安定法の改正概要と改正施行後の問題点
1-1.変更がない事項
ア 65歳までの雇用確保措置
・定年は60歳を下回ることができない。
・事業主は、雇用する高年齢者につき、以下のいずれかの措置を講じなければならない。
これらの点は、改正後も変更ありません(高年法第9条)。
事業主はこれまで通り、65歳までの高年齢者について、上記①~③までの雇用確保措置義務を負っています。
イ パートタイム・有期労働法の適用
また、これまでと同様にパートタイム・有期労働法の適用があり、短時間・有期雇用であることを理由とした不合理な待遇差を設けることは禁止されております(パートタイム有期労働法第8条、第9条)。
1-2.改正された事項
ア 高年齢者就業確保措置
事業主は、高年齢者就業確保措置として、以下のいずれかの措置を講じる努力義務があります(高年法第10条の2)。
②70歳までの継続雇用制度の導入
③定年の定めの廃止
④創業支援等措置
これら①~④はいずれも努力義務であり、直ちに導入が求められるものではありません。
もっとも、少子高齢化が進む中、高年齢者雇用の需要が高まり、近い将来措置義務とされる可能性があります。
そこで、事業主としては今の段階から将来に向けた制度設計を行っていくことが望ましいと言えます。
なお、これらの措置を導入することで助成金の交付を受けることができます。詳細は厚生労働省のホームページを御覧ください。
以下、上記①から④について詳述します。
(ア)①70歳までの定年引き上げ
70歳まで定年を引き上げることによって、高年齢者を70歳まで雇用することになります。
新たな継続雇用制度を導入する必要がなく、就業規則を変更する手続だけで完了する点で簡易な方法と言えます。
もっとも、70歳まで雇用継続義務が生じ、全体の人件費が増大する他、定年前に労働契約を解消するためには、従業員が自主的に退職するか、解雇するしか選択肢がなくなります。
高年齢者は若年層に比べ傷病のリスクが高いため、辞めてもらいたいときに辞めさせることが難しくなる点で、デメリットがあるといえるでしょう。
(イ)③定年の定めの廃止
上記①と同様の負担を負うほか、定年到達により従業員が退職することを前提とした雇用管理ができなくなる点で、デメリットが大きいといえるでしょう。
①及び③については、企業にとって融通の利いた雇用管理ができない点で、採用には障壁があると考えられます。
そこで、以下のとおり②又は④を採用することが考えられます。
(ウ)④創業支援等措置
創業支援等措置とは、70歳までの就業確保措置のうち、以下のような制度を導入することをいいます。
◆高年齢者との間で、70歳まで継続的に有償の業務委託契約を締結する制度
◆高年齢者が、70歳まで社会貢献事業(会社が実施もしくは会社が資金提供等で援助を行う団体が実施する事業)に従事できる制度
これらの制度を導入するためには、以下の手続を踏む必要があります。
ⅰ 計画策定
(出典:厚生労働省「高年齢者雇用安定法改正の概要」)
① 高年齢者就業確保措置のうち、創業支援等措置を講ずる理由
② 高年齢者が従事する業務の内容に関する事項
③ 高年齢者に支払う金銭に関する事項
④ 契約を締結する頻度に関する事項
⑤ 契約に係る納品に関する事項
⑥ 契約の変更に関する事項
⑦ 契約の終了に関する事項(契約の解除事由を含む)
⑧ 諸経費の取扱いに関する事項
⑨ 安全および衛生に関する事項
⑩ 災害補償および業務外の傷病扶助に関する事項
⑪ 社会貢献事業を実施する法人その他の団体に関する事項
⑫ ①~⑪のほか、創業支援等措置の対象となる労働者の全てに適用される事項
※⑪および⑫は該当がある場合に記載する必要があります。
ⅱ 過半数労働組合又は労働者の過半数代表者の同意を得る
※同意を得る場合には、労働関係法令が適用されない働き方であることや、創業支援等措置を選択する理由を十分に説明することが望ましいです。(出典:厚生労働省「高年齢者雇用安定法改正の概要」)
ⅲ iで策定した計画を労働者に周知する
計画を策定するだけではなく、その内容を労働者に周知しなければなりません。
労働者に対して書面を交付した上で、制度の内容を説明することが望ましいでしょう。
もっとも、これらの制度は高年齢者の需要がどの程度あるのか、業務委託契約が軌道に乗るかについて、制度運用の様子を見ないとわかりません。
また、社会貢献事業に従事する制度については、そのような活動に出資している企業が多くない点で、導入することができる企業は限られてくることが考えられます。
(エ)②70歳までの継続雇用制度の導入
上記述べたように、①、③及び④の方法はそれぞれ導入障壁が高いように思えます。
そのため、高年齢者就業確保措置を導入する場合には、継続雇用制度を導入することがもっとも多くなると思われます。
イ 再就職援助措置の努力義務対象の拡大
改正前、事業主は一部の例外を除く45歳以上65歳未満の者について、再就職の斡旋、教育訓練受講、経済的支援、カウンセリング、委託等を行う努力義務が課されていました。
改正後は、事業主が70歳までの就業確保措置を講じない場合及び就業確保措置の対象とならなかった70歳までの高年齢者まで努力範囲の対象が拡大されました。
そのため、70歳までの就業確保措置を講じない場合や、就業確保措置を講じているが当該労働者を継続雇用しなかった場合には、努力義務の対象が70歳まで拡大することに注意が必要です。
ウ 高年齢者就業確保措置に関する計画、指導、助言等
高年齢者の65歳から70歳までの安定した雇用の確保その他就業機会の確保のため必要があると認めるときは、事業主に対し、指導及び助言がなされる可能性があり、これに従わない場合には、高年齢者就業確保措置の実施に関する計画の策定を勧告される可能性があります。(高年法第10条の3)
高年齢者就業確保措置はあくまで努力義務ですから、制度の趣旨や内容の周知を目的とする啓発や指導が行われることがあります。
一方で、制度を導入している場合には、実施状況に問題があると認められ、制度の改善等のための行政指導がされるおそれがあり、改善しない場合には計画の策定を勧告される可能性があります(同法第10条の3第2項)。
エ 高年齢者の雇用状況の報告
改正前は、定年及び継続雇用制度の状況その他高年齢者の雇用に関する状況についてが報告事項とされていました。
一方改正後は、就業確保措置を導入した事業主については、制度の実施状況を報告事項に加えることとなります。
2.65歳以上の継続雇用制度導入の注意点
ここからは、65歳以上の継続雇用制度を導入する場合の注意点を解説します。
2-1.継続雇用の合意の成否
ア 継続雇用の合意が成立しなかった場合の注意点
継続雇用の合意が成立しなかった場合には、継続雇用が実現していない点で、高年法の雇用確保措置又は就業確保措置に違反したことにはなりません。
もっとも、事業主が合理的な裁量の範囲を超えた著しく低い水準の労働条件を提示した結果、継続雇用の合意に至らなかった場合には、不法行為に基づく損害賠償請求権が認められる余地があります。
イ 継続雇用の合意が成立した場合の注意点
継続雇用の合意が成立した場合であっても、不合理と認められる相違(パートタイム・有期雇用労働法第8条)に該当し、違法とされる余地があります。
ここで、違法とされる基準について示した裁判例をご紹介します。
長澤運輸事件(最判平成30年6月1日)
【事案】
定年退職後、1年間の有期雇用契約を締結して再雇用された原告らが、無期労働契約の正社員との間の賃金格差(平均21%減)が不合理であり、労働契約法20条(≒パ有法8条)に違反すると主張した事案。原告=ドライバー、正社員=ドライバー
【結論】
不合理→精勤手当の不支給
不合理でない→基本給、住宅手当、家族手当、役員手当、賞与の不支給
【判断手法】
①定年後再雇用者であることを「その他の事情」も別要素として考慮しました。
本件では、待遇差が不合理であるかどうか判断するにあたっては、職務内容及び変更範囲並びにこれらに関する事情に限定しませんでした。
すなわち、使用者は、雇用及び人事に関する経営判断の観点から、労働者の職務内容及び変更範囲にとどまらない様々な事情を考慮して、労働者の賃金に関する労働条件を検討するものということができ、労働者の賃金に関する労働条件のあり方については、基本的には、団体交渉等による労使自治に委ねられるべき部分が大きいというべきであると判示しました。
定年後再雇用であることから、労使交渉により決定された事情をその他の事情として考慮したものです。
②賃金項目ごとに比較し、不合理か否かを判断しました。
賃金項目によって趣旨が異なるから、その趣旨に照らして各手当の支給又は不支給が合理的か否かを判断する手法をとったものです。
例えば精勤手当については、「従業員に対して休日以外は1日も欠かさずに出勤することを奨励する趣旨で支給される」趣旨であるから、職務の内容が同一の場合には、皆勤を奨励する趣旨に相違はないから、精勤手当を不支給とすることは不合理であると判断しました。
③賃金項目を横断する判断手法を安易には用いない
最高裁は、各賃金項目をそれぞれ分けて検討しながらも、賃金項目を横断して判断する手法をもとっています。
「ある賃金項目の有無及び内容が、他の賃金項目の有無及び内容を踏まえて決定される場合もあり得る」ため、全体のバランスを見て合理性を判断することもあると判示しました。
上記裁判例からすると、定年後再雇用者の待遇を下げる場合には、定年前の職務の内容を、再雇用に見合った職務の内容に変更することが重要です。
職務の内容の同一性については、ⅰ業務の内容が実質的に同一であるか、ⅱ責任の程度が著しく異なっていないかを考慮して同一性を判断します。
(出典:厚生労働省「短時間労働者および有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律の施行について」)
ⅰについては個々の作業まで完全に一致していることを求められているわけではなく、実質的に同一かどうかを持って判断されます。
ⅱについては、役職名等外見的なものだけで判断せず、実態を見て比較することが必要です。
2-2.説明義務と是正指導・監督について
事業主は、パートタイム・有期雇用労働者から求めがあったときは、待遇の相違の内容及び理由について説明しなければなりません(パートタイム・有期雇用労働者法第14条)。
そして、この説明義務に違反した場合には、是正指導や勧告を受けることがあり(同法第18条1項)さらに進んで、公表という制裁を受けるリスクもあるため(同条第2項)、注意が必要です。
説明義務の履行を求められた場合には、会社として待遇の差異を設けた理由を説明することに留意してください。
3.高年齢者継続雇用にかかる対象者基準について
65歳を超えて70歳まで継続雇用する場合には、対象者基準を設け、該当する者だけを継続雇用することができます。
この対象者基準について、「高年齢者就業確保措置の実施及び運用に関する指針(厚生労働省)」は、以下のように述べています。
また、心身の故障のために業務に耐えられないと認められること、勤務状況が著しく不良で引き続き従業員としての職責を果たし得ないこと、就業規則に定める解雇事由又は退職事由に該当する場合には、継続雇用しないことができるとし、これらの事由を継続雇用しない事由として就業規則や労使協定で定めることも可能。
ただし、継続雇用しないことについては、客観的に合理的な理由があり、社会通念上相当であることが求められる。
上記指針からすると、対象者基準については客観的に合理的なものである必要があると考えられます。
また、従前の再雇用基準の裁判例からすると、再雇用を希望する労働者に対し、合理的な期待を抱かせないような基準である必要があります。
そのため、例えば直近の健康診断で問題がないことを要求し、能力考課で一定の基準を要求し、さらに懲戒処分歴の有無を基準に入れること等が考えられます。
4.高年齢者対応について千瑞穂法律事務所ができること
高年齢者雇用に関わる就業規則や雇用契約書については、裁判所でさまざまな判断がされているところ、これら裁判所の判断を前提とした書面を作成する必要があります。
当事務所では、高年齢者雇用に関する会社の実情及び運営形態を聞き取りし、また裁判所の判断内容を前提として就業規則・雇用契約書の作成をさせていただきます。
併せて、現在運用している就業規則・雇用契約書にリスクがないかのリーガルチェックもさせていただきます。
(2)問題高年齢社員への対応
会社にとってリスクのある高年齢社員に対して、どのように対応するべきか、またどのようにリスクを排除することができるかについてのご相談を承ります。
(3)労働審判への対応
高年齢者の継続雇用を巡っては、争いが生じることが考えられます。
労働者とのトラブルが労働審判に発展しそうな場合、労働審判についてのご相談を承ります。
→詳細は労働審判についてのリンクを御覧ください
5.高年齢者対応に関するご対応の弁護士費用
初回ご相談は無料です。その他弁護士費用についてはこちらをご覧ください。
6.ご相談の流れ
千瑞穂法律事務所に企業法務にまつわるご相談や各種お困りごと、顧問契約に関するご相談をいただく場合の方法をご説明します。
【1】 お電話の場合
「082-962-0286」までお電話ください。(受付時間:平日9:00〜17:00)
担当者が弁護士との予定を調整のうえ、ご相談日の予約をおとりします。
【2】 メールの場合
「お問い合わせフォーム」に必要事項をご入力のうえ、送信してください。(受付時間:年中無休)
送信いただいた後に担当者からご連絡し、ご相談日の予約をおとりします。
(ご相談時刻:平日9:30〜19:00)
※ 夜間や土日のご相談をご希望のお客様については、できるかぎり調整しますのでお申し出ください。
見積書をご確認いただき、ご了解いただいた場合には、委任状や委任契約書の取り交わしを行うことになります。
この場合、当該案件について電話やメールによるご相談が可能です。
進捗についても、適時ご報告いたします(訴訟対応の場合、期日経過報告書をお送りするなどのご報告をいたします)。
②65歳までの継続雇用制度の導入
③定年の定めの廃止