ここでは募集・採用・試用期間にまつわるトラブル対応法についてご説明します。
目次
1.採用の自由と限界
使用者は契約締結の自由(採用の自由)を有しており、誰をどのような条件で雇用するのかについて、原則として自由に決定することができます(最大判昭和48年12月12日参照)。
ただし、使用者の採用の自由にも一定の限界は存在します。
例えば、男女差別は許されませんし(男女雇用機会均等法5条)、障害者差別も禁じられています(障碍者雇用促進法34条)。
また、「使用者は、労働契約の締結に際し、労働者に対して賃金、労働時間その他の労働条件を明示」しなければなりません(労働基準法15条)。
明示すべき事項については、労働基準法施行規則5条に記載されていますが、特に次の事項は、書面による交付が義務付けられています。
なお、労働基準法15条1項については、「同条項違反の効果としては、即時解除権の発生と帰郷旅費請求権の発生とされており(労基法15条2項、3項)、労基法15条1項をもって、直ちに使用者に対して、労働条件に関して、違反した場合に損害賠償義務が生じるような私法上の具体的な説明義務を課したものとは解しがたい。」とした裁判例(東京地判平成26年 8月13日)が存在します。
そこで、明示義務に違反したとしても、直ちに損害賠償責任が生ずる訳ではありませんが、信義則上の責任は負う可能性がありますし、行政庁から指導を受ける可能性もあるため、採用にあたっては明示義務を尽くしておくことが大切でしょう。
そのほか、採用に関しては、厚生労働省が「公正な採用選考をめざして」というパンフレットを公表していますので、この内容にもご留意していただければと思います。
以下では、こうした採用の自由と限界を前提に、募集・採用・試用期間にまつわる具体的なトラブルの対応法をご説明します。
2.求人広告記載の労働条件と、契約書上の給与・雇用期間等の労働条件が異なる場合
よくある採用時のトラブルとして、求人広告には「基本給25万円、無期雇用」などと好条件の記載をしていたが、契約時には「基本給20万円、1年間の有期雇用」などと条件の下がった内容で採用したというケースがあります。
このような場合、労働者からは「好条件の求人広告に応募したのだから、当然に求人広告記載の労働条件に従うべきだ」と主張されてしまうことがあります。
一方で、使用者としては「実際に面談をした結果、知識・経験が不足していることが判明したのだから、求人広告の労働条件で雇うことなどできない」といった反論を行うことがあります。
このように求人広告記載の労働条件と雇用契約書上の労働条件が異なる場合、どのように考えるべきなのでしょうか。
この点、求人広告やハローワークに掲示する求人票は、労働契約の「申込みの誘引」にすぎないとされており、原則として、使用者と労働者との間で最終的に合意した内容(雇用契約書上の労働条件)が労働契約の内容になります(東京高判平成22年5月27日参照)。
そこで、求人広告に「基本給25万円、無期雇用」などと記載していた場合でも、契約時に「基本給20万円、1年間の有期雇用」という内容で合意したのであれば、基本的には契約時の内容が労働条件ということになります。
もっとも、きちんとした雇用契約書を交わさないまま雇用を開始した場合のように、契約時に求人広告とは異なる条件で合意したことが明らかでないような場合、特段の事情がない限り、求人広告に記載された労働条件に基づいて労働契約が成立していると判断されてしまうことがあります。
また、求人広告とは異なる合意については、労働者の自由な意思でなされた合意であるかを厳密に判断した裁判例も存在します(京都地判平成29年3月30日)。
そこで、求人広告の労働条件と異なる内容で採用する場合には、労働者にどうして異なる内容での採用とするのかを丁寧に説明したうえで、その説明内容について録音や書面化を行い、労働条件通知書や雇用契約書において適用される労働条件を明確に定めておくべきでしょう。
3.内定取消しや本採用拒否をする場合
3-1.内定取消しができるか
内定取消しができるか否かについては、その段階で労働契約が成立しているか否かに大きく左右されます。
労働契約が成立していないのであれば、使用者は原則として自由に採用しないことができますが、労働契約が成立しているのであれば、自由に取消しを行うことはできなくなります。
このように内定取消しについては、既に労働契約が成立しているのか否かが重要な分岐点になりますが、一言に内定といっても、新卒の場合と中途採用の場合など個別の状況次第で労働契約の成立時期は変化しえます。
例えば、新卒採用の場合、大企業では10月1日以降に内定式を開催し、入社誓約書の提出を受けていることがありますが、こうした場合には内定式の段階で「始期付解約権留保付の労働契約」が成立していると評価されることが多いでしょう。
このように既に「始期付解約権留保付の労働契約」が成立している場合、内定取消しの理由となる事実は、「採用内定当時知ることができず、また知ることが期待できないような事実であつて、これを理由として採用内定を取消すことが解約権留保の趣旨、目的に照らして客観的に合理的に認められ社会通念上相当として是認することができるものに限られる」ことになります(最判昭和54年7月20日)。
他方、中途採用の場合には賃金など重要な要素が未定の場合、「内定」という言葉が使われていたとしても、未だ労働契約は成立していないと評価できる場合があります。
このような場合には、使用者は原則として自由に採用しないことはできることになりますが、内定があったことを理由に前職を退職したような場合には労働者の期待権を侵害したと評価され、一定の慰謝料の支払いが必要になることもあります。
3-2.本採用拒否ができるか
正社員を採用した場合、多くの企業で一定期間を試用期間とし、実際に労働させる過程で適性を評価し本採用を行うかどうかを決定するということが行われています。
このような試用期間については、「解約権留保付の労働契約」が成立していると評価されることが多く、自由に本採用拒否できる訳ではありません。
本採用拒否について、裁判所は「採用決定後における調査の結果により、または試用中の勤務状態等により、当初知ることができず、また知ることが期待できないような事実を知るに至つた場合において、そのような事実に照らしその者を引き続き当該企業に雇傭しておくのが適当でないと判断することが、上記解約権留保の趣旨、目的に徴して、客観的に相当であると認められる場合」に限られるとしています(最大判昭和48年12月12日)。
このように最終的には個別の事情次第ではあるのですが、本採用拒否は一定の理由が求められるということには注意が必要です。
もっとも、本採用の拒否は、懲戒解雇や普通解雇に比べ、一般的にはハードルが低いため、この段階で採否を判断しておくことが重要です。
なお、私が担当した案件の中で稀に試用期間を定めずに正社員を採用されているケースがあります。
こうしたケースでは解約権の行使ができず、厳格な解雇という手続を踏まなければならないため、3か月から半年の試用期間を設けておくべきでしょう。
4.募集・採用・試用期間にまつわるトラブル対応について、千瑞穂法律事務所ができること
ご相談を受けた場合、労働者の方とどのようなやりとりをされたのか、証拠となるような書面やメールなどは存在するかなど個別の事情を詳しく伺ったうえで、法的観点からのコメントや最善策の提案をいたします。
また、内定取消しや本採用拒否ができないような場合、退職勧奨に関するアドバイスや千瑞穂法律事務所が労働者の方と直接交渉を行うといったことも行っております。
労働問題についてお悩みの場合、お気軽にご相談いただければと思います。
5.募集・採用・試用期間にまつわるトラブルに関するご対応の弁護士費用
初回ご相談は無料です。その他弁護士費用についてはこちらをご覧ください。
6.ご相談の流れ
千瑞穂法律事務所に企業法務にまつわるご相談や各種お困りごと、顧問契約に関するご相談をいただく場合の方法をご説明します。
【1】 お電話の場合
「082-962-0286」までお電話ください。(受付時間:平日9:00〜17:00)
担当者が弁護士との予定を調整のうえ、ご相談日の予約をおとりします。
【2】 メールの場合
「お問い合わせフォーム」に必要事項をご入力のうえ、送信してください。(受付時間:年中無休)
送信いただいた後に担当者からご連絡し、ご相談日の予約をおとりします。
(ご相談時刻:平日9:30〜19:00)
※ 夜間や土日のご相談をご希望のお客様については、できるかぎり調整しますのでお申し出ください。
見積書をご確認いただき、ご了解いただいた場合には、委任状や委任契約書の取り交わしを行うことになります。
この場合、当該案件について電話やメールによるご相談が可能です。
進捗についても、適時ご報告いたします(訴訟対応の場合、期日経過報告書をお送りするなどのご報告をいたします)。
② 期間の定めのある労働契約を更新する場合の基準
③ 就業の場所及び従事すべき業務
④ 始業及び終業の時刻、所定労働時間を超える労働の有無、休憩時間、休日、休暇並びに労働者を二組以上に分けて就業させる場合における就業時転換に関する事項
⑤ 賃金の決定、計算及び支払の方法、賃金の締切り及び支払の時期並びに昇給に関する事項
⑥ 退職に関する事項(解雇の事由を含む。)