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どのような場合にパワハラになるのか~その類型と判断基準~


昨今、パワー・ハラスメントについての法整備が進み、また人々のパワー・ハラスメントに対する関心が高まっています。実際に、当事務所においても「従業員がハラスメントを受けたと申告している。どのように対応をすればよいか。」といったご相談が非常に増えています。

また逆に、個人の方から、「同僚からパワー・ハラスメントを受けたと言われているが、パワー・ハラスメントをした覚えはない。」といったご相談も多くお聞きしています。

こうしたハラスメント相談は、放置していると被害者とされる従業員が退職し、会社に対しても損害賠償請求(使用者責任)がされるおそれがあります。また、調査が不十分なまま加害者とされる従業員に懲戒処分を行った場合にも損害賠償請求などのリスクを抱えることになるため、どのような対応をとることが望ましいかを心得ておくことが必要不可欠といえます。

そこで、本記事では、パワー・ハラスメント(以下、「パワハラ」といいます)の申告があった場合の諸対応についてご説明します。

1.パワハラの定義~そもそもパワー・ハラスメントとは?

(1)法律上の定義

令和元年5月29日に成立したいわゆるハラスメント規制法により、パワハラの要件が定められるとともに、事業主に防止措置を講じる義務が課されました。
パワハラの定義:30条の2第1項
①職場において行われる優越的な関係を背景とした言動であって、
②業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより
③その雇用する労働者の就業環境が害されること

パワハラ防止策の義務付け:同条項
労働者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の雇用管理上必要な措置を講じなければならない

【参考】
平成24年3月15日付「職場のパワーハラスメントの予防・解決に向けた提言取りまとめ」
「職務上の地位や人間関係などの職場の優位性を背景に、業務の適正な範囲を超えて、精神的・身体的苦痛を与える又は職場環境を悪化させる行為」

(2)各要件の検討

① 職場において行われる優越的な関係を背景とした言動

・職務上の地位が上位の者による行為
・同僚又は部下(職務上の地位が下位の者)による行為で、行為者が業務上必要な知識や豊富な経験を有している場合
・同僚又は部下からの集団による行為で、これに抵抗又は拒絶することが困難であるもの

② 業務上必要かつ相当な範囲を超えていること

・業務上明らかに必要性のない行為
・業務の目的を大きく逸脱した行為
・業務を遂行するための手段として不適当な行為
・当該行為の回数、行為者の数等、その態様や手段が社会通念に照らして許容される範囲を超える行為

③ 精神的・身体的苦痛を与える又はその雇用する労働者の就業環境が害されること

身体的・精神的な苦痛を与えること、又は就業環境を害すること当該行為を受けた者が身体的若しくは精神的に圧力を加えられ負担と感じること、又は当該行為により当該行為を受けた者の職場環境が不快なものとなったため、能力の発揮に重大な悪影響が生じる等、当該労働者が就業する上で看過できない程度の支障が生じることを意味します。これらに該当する主な例として、次のような行為が考えられます。

・暴力により傷害を負わせる行為
・著しい暴言を吐く等により、人格を否定する行為
・何度も大声で怒鳴る、厳しい叱責を執拗に繰り返す等により、恐怖を感じさせる行為
・長期にわたる無視や能力に見合わない仕事の付与等により、就業意欲を低下させる行為

(3)パワハラの行為類型(具体例)

(厚生労働省「あかるい職場応援団」https://www.no-harassment.mhlw.go.jp/foundation/pawahara-six-types/

2 パワハラの違法性

(1)総論

上記の基準に従ってパワハラと評価される行為があったと認定された場合であっても、ただちに違法とされるわけではありません。パワハラ=違法行為ではありませんので、注意が必要です。
違法性の判断基準ですが、パワハラとされた行為態様において、一般的に妥当な方法と程度を逸脱していたり、通常甘受すべき程度を著しく越える不利益を与える場合は違法となるとされています。
具体的には、指導を行う必要性、言動内容(人格非難や侮辱的な内容を含むものか否か)、回数(執拗かどうか)、態様(多人数の面前で行う、閉鎖的な環境で行う、指導後のフォローの有無等)、日常的な関係性(信頼関係が構築されていたか)等により判断されます。
被害者の対応にも非がある場合、業務に安全確保の必要性や緊急性のある場合等には、ある程度厳しい指導も許容されることになります。

(2)裁判例

・ウィンザー・ホテルズインターナショナル事件・東京地判平成24年3月9日
「パワーハラスメントといわれるものが不法行為を構成するためには……パワーハラスメントを行った者とされた者の人間関係、当該行為の動機・目的、時間・場所、態様等を総合考慮の上、『企業組織もしくは職務上の指揮命令関係にある上司等が、職務を遂行する過程において、部下に対して、職務上の地位・権限を逸脱・濫用し、社会通念に照らし客観的な見地からみて、通常人が許容し得る範囲を著しく超えるような有形・無形の圧力を加える行為』をしたと評価される場合に限り、被害者の人格権を侵害するものとして民法709条所定の不法行為を構成する」

・護衛艦「さわぎり」いじめ自殺事件・福岡高判平成20年8月25日
「他人に心理的負荷を過度に蓄積させるような行為は、原則として違法であるというべきであり、国家公務員が、職務上、そのような行為を行った場合には、原則として国家賠償法上違法であり、例外的に、その行為が合理的理由に基づいて、一般的に妥当な方法と程度で行われた場合には、正当な職務行為として、違法性が阻却される場合があるというべきである」「そして、心理的負荷を過度に蓄積させるような言動かどうかは、原則として、これを受ける者について平均的な心理的耐性を有する者を基準として客観的に判断されるべきである。」

「R2班長とAは、おおよど乗艦中には、良好な関係にあったことが明らかであり、Aは2回にわたり、自発的にR2班長に本件焼酎を持参したこと、R2班長はAのさわぎり乗艦勤務を推薦したこと、Aが3回目に本件焼酎を持参すると言った際、返礼の意味を含めてA一家を自宅に招待し、歓待したこと等からすれば、客観的にみて、R2班長はAに対し、好意をもって接しており、そのことは平均的な者は理解できたものと考えられるし、Aもある程度はこれを理解していたものであって、R2班長の上記言動はAないし平均的な耐性を持つ者に対し、心理的負荷を蓄積させるようなものであったとはいえず、違法性を認めるに足りないというべきである。」

・岡労基署長(日研化学)事件・東京地判平成19年10月15日
「第1に、A係長がXに対して発したことば自体の内容が、過度に厳しいことである。……A係長のことばは、10年以上のMRとしての経験を有するXのキャリアを否定し、そもそもMRとして本件会社で稼働することを否定する内容であるばかりか、中には、Xの人格、存在自体を否定するものもある。第2に、A係長のXに対する態度に、Xに対する嫌悪の感情の側面があることである。……その悪感情の側面は、Xの心理的負荷を加重させる要因であるといえる。第3に、A係長が、Xに対し、極めて直截なものの言い方をしていたと認められることである。……上司の側から、表現の厳しさに一定の悪感情を混じえた発言を、何らの遠慮、配慮なく受けるのであるから、そこには、通常想定されるような「上司とのトラブル」を大きく超える心理的負荷があるといえる。」

・高松高判平成21年4月23日
「Aの上司からAに対して架空出来高の計上等の是正を図るように指示がされたにもかかわらず、それから1年以上が経過した時点においてもその是正がされていなかったことや、東予営業所においては、工事着工後の実発生原価の管理等を正確かつ迅速に行うために必要な工事日報が作成されていなかったことなどを考慮に入れると、Aの上司らがAに対して不正経理の解消や工事日報の作成についてある程度の厳しい改善指導をすることは、Aの上司らのなすべき正当な業務の範囲内にあるものというべきであり、社会通念上許容される業務上の指導の範囲を超えるものと評価することはできないから、上記のようなAに対する上司らの叱責等が違法なものということはできない。」

・医療法人財団健和会事件・東京地判平成21年10月15日
「原告の業務遂行について被告による教育・指導が不十分であったということはできず、……原告の事務処理上のミスや事務の不手際は、いずれも、正確性を要請される医療機関においては見過ごせないものであり、これに対するA又はDによる都度の注意・指導は、必要かつ的確なものというほかない。そして、一般に医療事故は単純ミスがその原因の大きな部分を占めることは顕著な事実であり、そのため、Aが、原告を責任ある常勤スタッフとして育てるため、単純ミスを繰り返す原告に対して、時には厳しい指摘・指導や物言いをしたことが窺われるが、それは生命・健康を預かる職場の管理職が医療現場において当然になすべき業務上の指示の範囲内にとどまるものであり、到底違法ということはできない。」

3 会社内でパワハラ申告があった場合の対応

セクシュアル・ハラスメントへの対応 3.会社内でセクハラ申告があった場合の対応」をご参照ください

4 千瑞穂法律事務所ができること

パワハラ申告があった場合に対応を誤ると、被害者又は行為者から損害賠償請求を受けるリスクがあります。
当事務所では、会社内でパワハラ申告があった場合に、初動を誤らないように今後の流れや事実調査の方法についてご案内いたします。また、事実認定後に、その事実認定結果に基づいてパワハラに該当するか否かについてコメントさせていただきます。パワハラに該当する場合には、どのような手続でどのような処分を行うことが望ましいか、裁判例に照らしてアドバイスさせていただきます。
パワハラ問題でお困りの際には、広島の千瑞穂法律事務所にぜひご相談ください。