仕事以外の場面で従業員が非違行為を行った場合、会社の業務とは関係がないのではないかとも思われますが、私生活上の行動が企業に大きなダメージを与えることも珍しくありません。
本記事では、私生活上の非違行為にはどのようなものがあるのか、また私生活上の非違行為を行った従業員に対して懲戒処分ができるのか等についてご説明いたします。
目次
1.私生活上の非違行為
私生活上の非違行為と言われても具体的にどのような行為が問題になるのか直ちに思い付きにくいと思いますが、従業員の私生活上の非違行為として、しばしば問題になるものは以下のようなものがあります。
・犯罪行為(痴漢、飲酒運転、暴行等)
・社内の不倫
・SNS上の不適切な投稿等
2.私生活上の非違行為について罰することができるのか
従業員の私生活上の行為について、業務外で起きたことには会社は何も口出しできないのではないかとも思われますが、判例は、「労働者の職場外における行為であっても、企業秩序に直接関連するもの、あるいは、企業の社会的評価を毀損するおそれのあるものについては、懲戒処分の対象となり得る」としており(論点体系判例労働法3 菅野和夫ほか 第一法規 181頁参照)、懲戒処分の可能性を否定していません。
もっとも、企業秩序に直接関連するもの、あるいは、企業の社会的評価を毀損するおそれがあるものといえるか否かについては、諸般の事情から慎重に判断する必要があります。
例えば、日本鋼管事件(最判昭和49.3.15民集28巻2号265頁)では、「従業員の不名誉な行為が会社の体面を著しく汚したというためには、必ずしも具体的な業務阻害の結果や取引上の不利益の発生を必要とするものではないが、当該行為の性質、情状のほか、会社の事業の種類・態様・規模、会社の経済界に占める地位、経営方針及びその従業員の会社における地位・職種等諸般の事情から綜合的に判断して、右行為により会社の社会的評価に及ぼす悪影響が相当重大であると客観的に評価される場合でなければならない」とされています。
以下、非違行為に関する代表的な類型毎にご説明させていただきます。
3.代表的な非違行為の類型
1.職場外の痴漢行為について
痴漢行為は重大な犯罪ですが、企業外の行為である以上、直ちに懲戒処分の対象となるわけではなく、2のとおり諸般の事情を考慮して判断がなされています。
代表的な裁判例(東京高判平成15年12月11日)では、鉄道会社の従業員が、電車内での痴漢行為をもって懲戒解雇された事案において、「被告は鉄道事業等を主たる業務とする株式会社であるところ、被告を含め、電鉄会社は痴漢撲滅運動に力を入れており、原告は、本来、鉄道業に携わる者としてこうした犯罪から乗客を守るべき立場にあることなどに照らすと、被告の規模、原告の地位のほか、本件行為に関し被告の企業名が報道された事実が存在しないこと等を斟酌しても、本件行為については、これによって被告の名誉、信用その他の社会的評価の低下毀損につながるおそれがあると客観的に認められるといわざるを得ず、また、これらの事実に照らした場合、懲戒として懲戒解雇を課したことも、懲戒権者に認められる裁量権の範囲を超えるものとは認められない」として懲戒解雇は有効と判断されました。
同裁判例は、鉄道会社であること、痴漢撲滅運動に力を入れていたこと、問題となった痴漢行為の半年前に同種の痴漢行為で罰金刑に処せられ、昇給停止や降職の処分を受けていたことがあったにもかかわらず再度痴漢行為をしたこと等の特殊な事情が考慮され懲戒解雇が有効とされたと考えられます。そのため、従業員が痴漢をしたという事案であれば一般的に懲戒解雇が有効になるわけではないと考えるべきでしょう。
痴漢のような刑事事件といえども、懲戒処分をするか否か、するとしても軽度な懲戒処分で留めるべきか、退職勧奨を行うべきか等について、個別の事案に応じて検討する必要があります。
なお、同裁判例では従業員に対して退職金を不支給にしたことについても争われていたところ、退職金の不支給については無効とされています。感覚的には懲戒解雇ができる状況であれば、退職金も当然不支給とできるのではないかと思ってしまいますが、退職金を不支給とすることにはリスクがあるため注意が必要です。
2.社内の不倫について
社内での不倫はしばしば問題になりますが、私生活上の行為であるため、基本的には懲戒処分の対象にはならないと考えられます。
もっとも、上述のとおり、企業秩序に直接関連して乱すような場合には懲戒処分の対象となると考えられます。
裁判例では、妻子あるバスの運転手が未成年の女子車掌を妊娠させた事案で懲戒解雇を有効にしたものがあります(長野電鉄事件 東京高判昭和41.7.30)。
この事案では、女性車掌の退職や女性社員への影響、求人に対する悪影響等重視されており、この事案についても不倫をしたことから直ちに懲戒解雇をしても良いということではなく、個別の事情に応じて懲戒解雇が有効とされたと考えられます。
基本的には社内の不倫の事案で懲戒解雇とすることには大きなハードルがあると考えられ、仮に企業秩序を乱すと考えられる場合でも、まずは注意指導や軽度の懲戒処分を検討するべきでしょう。
3.SNS上の不適切な投稿等
近年、SNSにおける会社を誹謗中傷する投稿や会社の社会的評価を毀損する投稿等に関する案件が増加しており、多くの会社で問題となっているかと思います。そして、このような投稿等は勤務時間外に個人のアカウント等からなされていることが多く、私生活上の行為であると考えられます。
もっとも、労働者は、労働契約に付随する義務として誠実義務を負っており、職場外であっても使用者の名誉や信用を毀損したり、会社に不当に損害を与えるような行為をしてはならないと考えられますので、私生活上での投稿であっても、懲戒処分の対象となり得ます。
SNSの投稿は、情報が拡散されやすく、一度投稿されると拡散した情報を全て削除することは困難であることを踏まえると、SNSで重要な企業秘密を漏洩したような場合には懲戒解雇を含む重い処分を行うことも検討できると思います。しかし、基本的にはSNS上への投稿で重い処分を行うことは違法とされるリスクが高いとお考えいただければと思います。
4.千瑞穂法律事務所ができること
上記のとおり、職場外の非違行為に対する懲戒処分の有効性やどの処分を検討すべきか等については、ケースバイケースと考えられます。また、懲戒処分を検討する場合、前提として事実確認や証拠収集が必要となります。当事務所では、事実確認等の方法のご助言や、個別のケースに応じて従業員の方にどのような懲戒処分を課すのが相当か、注意指導で留めるべきか、退職勧奨をすべきか等の方向性についてもご提案させていただいております。
従業員の方に非違行為があるのではないかと思われた場合には、お気軽にご連絡いただければと思います。
5.ご相談の流れ
千瑞穂法律事務所に企業法務にまつわるご相談や各種お困りごと、顧問契約に関するご相談をいただく場合の方法をご説明します。
オンライン(Zoom等)でのご相談も可能です。
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