今回の改正は単なる名称変更にとどまらず、適用の対象となる事業者の範囲拡大、適用の対象となる取引の追加、新たな禁止行為の追加など、実務に多大な影響を与える内容を含んでいます。
本記事では、取適法(改正下請法)のポイントと、企業の経営者・担当者がとるべき具体的な実務対応の流れを、弁護士が詳しく解説します。
目次
1.【2026年1月1日施行】取適法(改正下請法)の改正まとめ
今回の法改正における主な変更点は以下の5点です。
① 従業員基準の追加(資本金が小さくても対象に)
これまで、法の適用対象となる事業者の定義は、主に資本金の額によって区分されていました。
しかし、今回の改正により、資本金基準が適用されない場合であっても、新たに「常時使用する従業員の数」による基準(従業員基準)を満たす場合、取適法の対象となります。
取適法の適用対象となる事業者の範囲は、以下のとおりです。
出典:公正取引委員会「中小受託取引適正化法ガイドブック(https://www.jftc.go.jp/file/toriteki002.pdf)」より引用
※ここでいう「常時使用する従業員」には、日々雇い入れられる者(1か月を超えて引き続き使用される者を除く)以外の労働者が含まれます。正社員だけではなく、契約社員、パートタイマー、アルバイトも含まれます。
② 対象取引への「特定運送委託」の追加
物流業界の適正化を図るため、新たに「特定運送委託」が対象に追加されました。
これは、事業者が、販売する物品や製造を請け負った物品等を、その取引の相手方(納入先など)に対する運送を他の事業者に委託する場合を指します。
特定運送委託の類型は、以下のとおりです。
出典:公正取引委員会「中小受託取引適正化法ガイドブック(https://www.jftc.go.jp/file/toriteki002.pdf)」より引用
③ 協議に応じない一方的な代金決定の禁止
価格転嫁を円滑にするため、中小受託事業者が原材料費や労務費の高騰を理由に代金の協議を求めたにもかかわらず、委託事業者が、協議に応じなかったり、協議に応じたとしても、中小受託事業者の求めた事項について必要な説明若しくは情報の提供をせずに、委託事業者が一方的に代金を決定することが禁止されました。
ここでいう、「決定」には、代金を引き上げ、又は引き下げることのほかに、代金を据え置くことも含まれるため、注意が必要です。
委託事業者は、中小受託事業者からの協議に応じた上で、中小受託事業者からの値上げ要請額を受け入れることが難しい場合には、理由や根拠を十分に説明する必要があります。
委託事業者及び中小受託事業者は、協議を求める際や協議の際には、書面や電子メール等により行い、その記録を保存しておくことがおすすめです。
特に、委託事業者の場合には、中小受託事業者から説明や情報提供を求められた事項について、どのような説明や情報提供を行ったのかについて、協議経過や協議資料を記録化しておくことが推奨されます。
④ 手形払い等の禁止(60日ルールの厳格化)
委託事業者は、委託事業者が製品や役務を受領した日から起算して60日以内かつできる限り短い期間内に支払期日を定める必要があります。
改正前下請法では、上記の支払期日に、支払日から60日以内に満期日が到来する手形により代金を支払うことが認められていましたが、今回の改正で、取適法の対象となる取引において、代金の支払手段として、手形払いが禁止されました。
また、委託事業者が、電子記録債権やファクタリングにより代金を支払う場合には、当該電子記録債権等は、支払期日までに代金に相当する金銭を得ることができるものである必要があります。
そのため、これまでの手形支払いは認められなくなるため、財務部門と連携した資金計画の見直しが急務です。
⑤ 製造委託の対象拡大(金型等の追加)
製造委託の定義が見直され、物品の販売等を行っている事業者が、当該物品や部品の製造の用いる木型、治具などの製造を委託する場合も、新たに取適法の対象となります。
2.取適法改正対応の流れ
2026年1月1日の施行に適合し、行政勧告や社名公表のリスクを避けるためには、以下の手順で準備を進める必要があります。
① 取引先の資本金・従業員数および取引内容の洗い出し
まず、自社が「委託事業者」に該当するか、相手方が「中小受託事業者」に該当するかを再確認します。
- 従業員数の確認:今回の改正により、新たに従業員基準が追加されたため、発注者及び受注者の従業員によっては、今まで下請法が適用されていなかった会社間であっても、新たに取適法の対象となる可能性があります。
そのため、見積書の要求時や交渉開始時に、取引先に対して、「常時使用する従業員数」を確認するフローを導入しましょう。
- 取引の洗い出し:取引先との取引内容を確認し、物流業者への配送依頼(特定運送委託などの取引が、社内で行われていないか精査する必要があります。
② 契約条件の変更、必要書類の作成・修正
- 支払条件の見直し:取適法の対象取引において、代金の支払日を「受領日から60日以内」に変更する必要があります。また、対象取引において手形払を行っている場合には直ちに銀行振込等による支払いへ変更する必要があります。
- 発注書面・記録の整備:取適法の対象取引において、委託事業者は、発注書(注文書)に、取適法上記載が要求される事項(給付内容、代金、支払期日(60日以内)など)を漏れなく記載する必要があります。また、取引記録(受領日、支払日、代金等)を2年間保存することも必要となります。
③ 社内研修、社内周知
制度を整えても、現場担当者の認識不足があれば法違反は防げません。
そのため、取適法の内容(対象となる取引、委託事業者の義務内容、禁止事項等)について、社内周知・社内研修等を実施することが望ましいといえます。
なお、社内研修等を実施する場合には、購買・資材・物流部門だけでなく、製造現場や営業部門に対しても研修を実施し、具体的なNG事例を共有することが効果的です。
3.千瑞穂法律事務所にできること
取適法(改正下請法)への対応は、違反企業は社名公表等がされる可能性があるため、企業のコンプライアンス上極めて重要です。千瑞穂法律事務所では、取適法違反を防止し、安定した事業活動を実現するために、以下のサポートを提供しています。
① 取引状況の診断と適用関係の整理
従業員数や資本金、取引内容を詳細にヒアリングし、各取引が取適法の対象となるか、診断いたします。
② 契約書・発注書面のリーガルチェックと改訂
法改正に適合した契約書の見直しや、発注書面のフォーマット作成を支援します。
③ 社内研修の実施
取適法の内容や実務対応等について、外部講師として社内研修等を実施いたします。社内研修等に先立って、取引内容等についてヒアリングを行い、会社ごとの取引状況に応じた研修を実施しております。
取適法への対応は、単なる法令順守にとどまらず、企業の社会的信用性を確保したり、サプライチェーンの持続可能な成長を実現するための投資でもあります。対応に不安をお持ちの企業の皆様は、ぜひ一度、千瑞穂法律事務所にご相談ください。


















