目次
1.解雇について会社が知っておくべきこと
解雇は、会社が一方的に労働者との労働契約を終了させるものです。
我が国の労働法では、長期雇用継続制度を前提として労働者の雇用の維持を最優先しているため、解雇については様々な手続的、実体的な制限が設けられています。
会社が解雇をする場合には、このような制限に抵触しないかどうか十分に検討する必要があります。
以下、各種制限についてご説明します。
1-1.手続的規制
ア 解雇予告義務・解雇予告手当支払義務
(1) 天変事変その他やむを得ない事由のために事業の継続が不可能となった場合
(2) 労働者の責に帰すべき事由に基づいて解雇する場合
労働基準監督署長から除外認定を受ければ(労基法20条3項、19条2項)、予告手当の支払いなく即時解雇することができます。
② 適用除外(労基法21条)
(1) 2か月以内の期間を定めて使用される労働者
(2) 季節的業務に4か月以内の期間を定めて使用される労働者
(3) 試用期間中の労働者
を解雇する場合、解雇予告義務、解雇予告手当支払義務は発生しません。
ただし、以下の場合は解雇予告義務、解雇予告手当支払義務が発生します。
(1)については1か月を超えて引き続き雇用された場合
(2)については2か月以内の期間を定めて雇用された者が2か月を超えて引き続き雇用された場合
(3)については試用期間中の者が14日を超えて雇用されている場合
イ 解雇理由証明書の交付
使用者は、労働者から解雇理由証明書の発行を請求された場合、遅滞なく交付しなければなりません(労基法22条)。
1-2.実体的規制
ア 労働契約上の規制
常時10人以上の労働者を雇用する場合、会社は就業規則を定め、労働基準監督署に届け出なければなりません(労基法89条)。
解雇に関する規定は、就業規則の絶対的必要記載事項で、労働契約締結の際には書面により明示しなければならないほか(労基法15条1項、労基法施行規則5条1項4号)、就業規則等に定められた解雇事由に該当しない限り、解雇を行うことはできないと解されています。
イ 法律による規制
労働者が安心して業務上災害や出産の際に休業できるよう保障する趣旨でこのような制限が定められています。
例えば、業務に起因してうつ病を発症し休業している労働者に対して、就業規則上の休職期間が満了したとして解雇をすることは違法となり得ます。
同様の事案で、就業規則上、退職扱いとするという内容になっていたとしても、当該退職は無効になり得ます(大阪高判平成24年12月13日)。
ただし、使用者が業務上の災害について療養開始後3年を経過しても治らないため平均賃金の1200日分の打切補償(労基法81条)を支払った場合には、この制限は解除されます(労基法19条1項ただし書き)。
なお、打切補償による、解除制限解除の対象になる「第75条の規定によって保証を受けている労働者」には、労災保険から療養補償給付等を受けている者も含まれると解されています(最判平成27年6月8日)。
② その他の解雇制限
組合所属または正当な組合活動等を理由とした解雇(労働組合法7条)
性別を理由とした解雇(男女雇用機会均等法6条)
女性の婚姻・妊娠・出産等を理由とする解雇(男女雇用機会均等法9条)
育児・介護休業の申出又は取得を理由とする解雇(育児介護休業法10条、16条)
裁量労働制を拒否したことを理由とする解雇(労基法38条の4第1項6号)
労働基準監督署に法違反を申告したことを理由とする解雇(労基法104条2項)
個別労働紛争解決促進法上の助言・指導やあっせんを申請したことを理由とする解雇(同法4条3項、5条2項)
公益通報者保護法上の公益通報をしたことを理由とする解雇(同法3条)
など、個別の法律により解雇制限規定が設けられています。
ウ 解雇権濫用法理
解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、解雇権を濫用したものとして無効となります(労働契約法16条)。
これを簡単にいえば、「解雇事由が重大で、将来にわたって存続することが予想され、他に解雇を回避する手段がない場合」に初めて解雇が適法になる、ということです。
1-3.解雇権濫用法理の考慮要素
以下では、解雇権を濫用したものとして無効になるかどうかの判断にあたり、考慮すべき要素と関連する裁判例についてご説明します。
以下の裁判例のとおり、服務規律違反や能力不足の内容、使用者の適切な指導の有無、改善可能性といった要素が考慮される傾向にあります。
会社に不利益を及ぼすおそれのある私的行為を禁止する業務命令や会社業務と関連する私的行為の報告義務を再三にわたって無視する従業員に対する普通解雇を有効としたもの(東京地判平成17年4月15日)
人事考課の結果、従業員の中で下位10%未満の順位の者に対してなされた解雇について、「平均的な水準に達していないというだけでは不十分であり、著しく労働能力が劣り、しかも向上の見込みがないときでなければならない」とし、「人事考課は、相対評価であって、絶対評価ではないことからすると、そのことから直ちに労働能力が著しく劣り、向上の見込みがないとまではいうことができない」としたもの(東京地決平成11年10月15日)
勤務能力・適格性の低下を理由とする解雇については、労働契約上、労働者に求められている職務能力の内容を検討した上で、当該職務能力の低下が、当該労働契約の継続を期待することができないほどに重大なものであるか否か、使用者側が当該労働者に改善矯正を促し、努力反省の機会を与えたのに改善がされなかったか否か、今後の指導による改善可能性の見込みの有無等の事情を総合考慮して決すべきであるとしたもの(東京地判平成24年10月5日)
専門的な判断を仕事内容とする医師の雇用契約において、労働者に高度な能力を要する職務に期待される能力適性がないことが明らかになった場合に解雇を有効としたもの(東京地判平成13年7月13日)
② 使用者の解雇回避措置
配転、降格等によって解雇を回避できなかったかが考慮されることが多々あるため、解雇が最後の手段であることを説明できるかどうかを検討しておく必要があります。
客室乗務員が労災認定を受けて休職し、復帰後に労働能力の低下を原因として解雇された事案について、休職からの復職後ただちに従前の業務に復帰できない場合でも、比較的短期間で復帰することが可能である場合には、短期間の復帰や準備時間の提供などが信義則上求められ、このような信義則上の手段をとらずに解雇することはできないとして、解雇を無効としたもの(大阪高判平成13年3月14日)
1-4.会社がすべき対応
① 就業規則への解雇事由の明示
解雇事由は就業規則の絶対的必要記載事項であること、就業規則に規定され解雇事由に該当しなければ解雇が違法となることから、解雇事由を漏れなく就業規則に定めておく必要があります。
② 解雇制限に該当しないかを確認する
個別の法律により解雇制限規定が設けられている場合があるため、解雇の理由が上記(2)イに列挙したもの、その他関連する法律の定めに該当しないか等を確認する必要があります。
③ 解雇権濫用にあたらないか検討する
解雇が無効になった場合、解雇から勝訴判決が出されるまでの期間の賃金だけでなく、不当解雇に対する慰謝料、解雇されなかった場合に将来にわたり得られたはずの賃金などの支払も必要になる可能性があり、会社に大きな損失が生じるおそれがあります。
そのため、上記(2)ウ記載のとおり、「解雇事由が重大で、将来にわたって存続することが予想され、他に解雇を回避する手段がない場合」といえるか、それを立証できる証拠があるかを十分検討されることをお勧めします。
その他、”会社が知っておくべき「整理解雇」の手続きについて”はこちらをご覧ください。
2.解雇を行う企業のために千瑞穂法律事務所ができること
解雇についてお悩みの企業様は、広島の千瑞穂法律事務所にぜひご相談ください。
3.解雇に関するご相談の解決事例
4.解雇に関するご対応の弁護士費用
初回ご相談は無料です。その他弁護士費用についてはこちらをご覧ください。
① 少なくとも30日前に予告をするか
② 30日分以上の平均賃金(予告手当)を支払わなければなりません(労基法20条1項本文)。
ただし、上記①、②の要件を満たさずに解雇した場合であっても、会社が即時解雇に固執する趣旨でない限り、解雇通知後30日を経過するか、解雇通知後に予告手当の支払いがあれば、そのいずれか先の時点で解雇の効力が生じます(最判昭和35年3月11日)。
なお、支払方法は、解雇通知と同時に通貨により全額を直接労働者に支払う必要があります。
小切手や分割払いでの支払は認められません。