目次
1.競業避止義務について会社が知っておくべきこと
競業避止義務とは、在職中又は退職後の従業員が使用者と競合する事業活動を差し控える義務のことをいいます。
従業員が、競合他社の設立、競合他社の取締役への就任、競合他社への転職などの行為を行う場合、会社の技術情報、顧客情報、ノウハウ等が利用され、会社に損害が生じるおそれがあります。
このような場合に、競業避止義務に違反しないかどうかが問題となります。
以下では、どのような場合に競業避止義務に違反するといえるのか(1-1.、1-2.参照)、違反する場合に会社としては何を請求できるか(1-3.参照)についてご説明します。
1-1.法的根拠
会社が、従業員の競業避止義務違反を主張するためには、その前提として、その従業員が競業避止義務を負っていなければなりません。
ここでは、従業員が競業避止義務を負う根拠についてご説明します。
ア 在職中
競業避止義務は、「従業員は在職中及び退職後6か月間、会社と競合する他社に就職し、又は競合する事業を営むことを禁止する。」などという内容で、就業規則や誓約書などに定められていることが多くみられます。
もっとも、仮にこのような規定が定められていなかったとしても、在職中の従業員は、労働契約に付随する誠実義務(労働契約法3条4項)の一環として、当然に競業避止義務を負っていると考えられています。
よって、在職中の競業行為については、特別の根拠がなくとも、会社はその従業員に対して、1-3.に記載した請求を行うことができます。
イ 退職後
一方で、退職後は、各従業員に職業選択の自由があるため、従業員の競業行為について1-3.の請求をするためには、特別な根拠が必要となります。
なお、この三佳テック事件の控訴審(名古屋高判平成21年3月5日)では、従業員らが退職前から競業を計画し開業準備を進めていたこと、退職前後において会社の取引先に対して積極的な営業活動を行ったこと、代表取締役就任の登記手続の時期を遅らせて競業の隠ぺい工作を施したことなどを認定し、従業員らの競業は不法行為に該当すると判断しています。
ただし、上告審である最高裁は、結論として不法行為には該当しないと判断しています。
このことから、就業規則の規定・個別合意がない場合に従業員の競業行為が不法行為と評価されるのは、よほど悪質な場合に限定されていると理解すべきでしょう。
不正競争防止法を根拠とする場合にポイントになるのは、不正に使用・開示される会社の秘密が「営業秘密」に該当するかどうかです。
不正競争防止法2条6項では、「営業秘密」とは、秘密として管理されている(秘密管理性)生産方法、販売方法その他の事業活動に有用な技術上又は営業上の情報であって(有用性)、公然と知られていないものをいう(非公知性)と定められています。
1点目の秘密管理性の要件を満たすためには、その情報に接することができる従業員等からみて、その情報が会社にとって秘密としたい情報であることが分かる程度に、アクセス制限やマル秘表示といった秘密管理措置がなされていることが必要になります。
2点目の有用性の要件は、脱税情報など公序良俗に反する情報でなければ肯定されることが多いといえます。
3点目の非公知性の要件は、入手可能な刊行物に記載されていないなど、情報の保有者の管理下以外では一般に入手できない場合に肯定されます。
1-2.競業禁止規定の有効性
上記1-1.イ①のとおり、就業規則の規定・個別の合意があったとしても、競業避止義務を従業員に課すことは、当該従業員の職業選択の自由を制限することになるため、競業禁止規定が無効になる場合があります。
競業禁止規定の有効性は次のア~オの事情を総合考慮して判断されます。
ア 守るべき企業利益の有無
競業を禁止することで守ろうとする利益(技術情報、顧客情報、ノウハウ等)が重要であれば、競業禁止規定が有効と判断されやすくなります。
イ 従業員の地位
会社の秘密情報に接する機会が多い従業員であれば、当該従業員に対して競業避止義務を課すことに合理性が認められ、有効と判断されやすくなります。
ウ 競業禁止期間
競業禁止の期間が短ければ短いほど、従業員の職業選択の自由への制限が小さくなるため、有効と判断されやすくなります。
エ 禁止される行為の範囲
禁止の対象とする、業務内容、職種、地域を限定すればするほど、従業員の職業選択の自由への制限が小さくなるため、有効と判断されやすくなります。
オ 代償措置の有無
競業避止義務を課すことの代わりに従業員に相当額の金銭を交付すれば、有効と判断されやすくなります。
なお、賃金、賞与、退職金の名目であっても、労働の価値を超える金額が交付されている場合、代償措置としての金銭交付が含まれていると評価されることもあります(東京地判平成17年9月27日参照)。
1-3.請求できること
ア 差止請求
もっとも、差止めは競業の主体に大きな不利益を課す措置であるので、差止め請求が認められるためには、競業行為により会社が営業上の利益を現に侵害され、または侵害される具体的なおそれがある場合など、差止めの必要性が肯定される必要があるでしょう。
不法行為と評価されるためには、競業行為が自由競争を逸脱する違法な態様でなされている必要があります
(前掲三佳テック事件)。さらに、不法行為を根拠とする差止めが認められるのは、不法行為の違法性が強度で、事後的な損害賠償では会社の損害の回復が図れないと認められるような場合に限定されると考えられます。
差止め請求が認められるためには、競業行為により会社が営業上の利益を現に侵害され、または侵害される具体的なおそれがあると認められる必要があります。
イ 損害賠償請求
損害賠償請求を行う場合、会社は、競業行為によって損害が発生したこと、損害額を立証しなければなりません。
具体的に算定することが困難な場合には、合理的な推計方法を考える必要があるでしょう。
逸失利益が認められる期間は、会社が競業避止義務違反の影響から回復するために要する期間と認定されることが多いと思われます。
まず、不正競争防止法に基づいて損害賠償請求する場合には、損害額の推定規定を利用することができます(不正競争防止法5条)。
また、不正競争防止法に基づく請求でなくとも、損害が発生しているものの具体的な損害額の立証が極めて困難であるときは、裁判所が相当な損害額を認定する場合もあります(民事訴訟法247条)。
1-4.会社がすべき対応
ア 就業規則・誓約書等への明記
以上に説明したとおり、競業避止義務違反に対する責任追及を行う場合には、
①就業規則・個別合意に基づく場合
②不法行為に基づく場合
③不正競争防止法に基づく場合
の3パターンが存在します。
しかし、②不法行為に基づく場合には、上記のとおりかなり厳しい要件(1-1.イ②、1-3.ア②参照)をクリアしなければならず、請求が認められるケースはごくわずかです。
また、③不正競争防止法に基づく場合には、競業行為が同法に定める行為類型に該当することが前提となるため、すべての競業行為に対応することができるわけではありません。
一方で、①就業規則・個別合意に基づく場合は、競業禁止規定が有効であると認められる必要はありますが、請求に全く根拠がないという事態は回避することができます。
そのため、会社としては、就業規則に競業禁止規定を置いておくことは必須といえるでしょう。
また、従業員の退職時や従業員の地位に変動があった場合には、退職後の競業禁止を定めた誓約書等を提出するよう求めておくべきです。
イ 会社の秘密情報の管理体制構築
次に、①就業規則・個別合意に基づく場合、②不法行為に基づく場合、③不正競争防止法に基づく場合のどの根拠に基づく場合も、守られるべき会社の秘密情報がどれだけ重要なものであるのかが、競業避止義務違反の判断にとって非常に重要になってきます。
また、③不正競争防止法に基づく請求の場合は特に、「営業秘密」に該当する秘密でなければ保護の対象となりません。
そこで、会社としては、重要な秘密をどのように管理すべきかの体制を構築しておくべきでしょう。
例えば、重要な秘密にアクセスできる者を限定する、秘密情報を保存したパソコンをインターネットに接続できないようにする、施錠管理、ペーパーレス化、私用USBの利用・持込禁止、「マル秘」の表記、無断持出禁止の張り紙、研修等の措置が考えられます。
2.従業員の競業行為への対応を行う企業のために千瑞穂法律事務所ができること
また、秘密情報の管理に関する規程の作成、従業員向け研修の実施などのサポートを行っております。
3.競業避止義務に関するご対応の弁護士費用
初回ご相談は無料です。その他弁護士費用についてはこちらをご覧ください。
4.ご相談の流れ
千瑞穂法律事務所に企業法務にまつわるご相談や各種お困りごと、顧問契約に関するご相談をいただく場合の方法をご説明します。
【1】 お電話の場合
「082-962-0286」までお電話ください。(受付時間:平日9:00〜17:00)
担当者が弁護士との予定を調整のうえ、ご相談日の予約をおとりします。
【2】 メールの場合
「お問い合わせフォーム」に必要事項をご入力のうえ、送信してください。(受付時間:年中無休)
送信いただいた後に担当者からご連絡し、ご相談日の予約をおとりします。
(ご相談時刻:平日9:30〜19:00)
※ 夜間や土日のご相談をご希望のお客様については、できるかぎり調整しますのでお申し出ください。
見積書をご確認いただき、ご了解いただいた場合には、委任状や委任契約書の取り交わしを行うことになります。
この場合、当該案件について電話やメールによるご相談が可能です。
進捗についても、適時ご報告いたします(訴訟対応の場合、期日経過報告書をお送りするなどのご報告をいたします)。
もっとも、就業規則の規定・個別の合意があったとしても無効と判断されることもあります。
そのため、1-3.に記載する請求が認められるためには、就業規則の規定・個別の合意が有効であると認められなければなりません(有効か無効かの判断方法は1-2.をご参照ください。)。