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懲戒解雇とするか普通解雇とするか、その分岐点

懲戒解雇とするか普通解雇とするかその分岐点

例えば、従業員が水増し請求や横領、窃盗といった犯罪行為を行った場合、使用者(会社側)としてはどのような対応を考えるべきでしょうか。

被害額や頻度、期間等にもよると思いますが、まず頭に浮かぶのは「懲戒解雇」ではないかと思います。

 

社会的に許されない行為を行った従業員に厳しい処分を行うことは、事業を継続していくためにも、社内秩序維持のためにも、必要なことです。

 

もっとも、懲戒解雇には多くの注意すべき点があり、安易に懲戒解雇を行った場合、かえって解雇した社員から損害賠償請求等を受けるといったリスクがあります。

 

そこで、本記事では、懲戒解雇とするか普通解雇とするか、その分岐点についてご説明します。結論のみ知りたいという方は、「4.普通解雇と懲戒解雇いずれを選ぶか」をご確認ください。

 

1.解雇予告手当や退職金を支払わないために懲戒解雇を選択すべきか

大前提として、一口に解雇といっても、普通解雇と懲戒解雇ではその性質が大きく異なります。

 

すなわち、普通解雇は「解雇」であり、解雇としての法規制だけを受けます。

 

これに対し、懲戒解雇は「懲戒処分」かつ「解雇」であるため、懲戒処分としての法規制と解雇としての法規制の両方の規制を受けます。

 

このように、普通解雇と懲戒解雇には大きな違いがあることに注意が必要です。

 

その上で、悪質な行為(例えば横領など)を行った社員に対しては、解雇予告手当(労働基準法20条1項)は支払わずに即時に解雇すべきだと考え、懲戒解雇を選択されているケースがあります。

 

しかし、懲戒解雇であれば解雇予告手当を支払う必要がなく、普通解雇であれば解雇予告手当を支払う必要があるという訳ではありません。

 

解雇予告手当を支払う必要があるか否かは、「労働者の責に帰すべき事由に基いて解雇する場合」(労働基準法20条1項ただし書)といえるかに左右されます。

 

したがって、懲戒解雇ではなく、普通解雇でも解雇予告手当を支払う必要がない場合があるということは知っておくとよいでしょう。

 

また、懲戒解雇がなされると多くの場合、退職金が支払われませんが、これも懲戒解雇をしたからといって当然に退職金を支払わないでよいという訳ではありません。

 

退職金を不支給とすることができるか否かは、賃金規程や退職金規程等に定める退職金不支給事由に該当するか否かによって判断されるものであり、規程次第ではありますが、普通解雇でも退職金を不支給とする余地はあります。

 

以上のように、解雇予告手当や退職金を支払わないために懲戒解雇を選択する必要はありませんので、それでもあえて懲戒解雇とする必要性があるかは慎重に検討すべきでしょう。

 

なお、懲戒解雇を行うためには、就業規則上に懲戒解雇に関する規定が設けられていること、その就業規則が労働者に周知されていることが必要であるということにもご留意ください。

 

2.懲戒解雇を普通解雇に転換させることができるか

上記と重複しますが、懲戒権の行使である懲戒解雇と中途解約の意思表示にすぎない普通解雇は全く性質の異なるものと考えられている結果、懲戒解雇の意思表示に普通解雇の意思表示が含まれていると考えることはできないとされています。

 

これはどういう意味かというと、懲戒解雇であると意思表示をした場合、後に「普通解雇のつもりでした」ということはできず、逆に普通解雇であると意思表示をした場合、後に「懲戒解雇のつもりでした」ということはできないということです。

 

実際の案件では、懲戒解雇の意思表示なのか、普通解雇の意思表示なのかが不明瞭であることも少なくありませんが、会社が「懲戒解雇通知書」といった題名の文面で労働者に通知を行っていた場合、後日、訴訟などになった後で「普通解雇でした」といった主張をすることは難しくなります。

 

そこで、懲戒解雇としての有効性が問題になるような事案では、懲戒解雇の意思表示に普通解雇の意思表示も含む旨を明示しておくことが有効な対策になります。

 

3.懲戒解雇事由を追加・変更できるか

懲戒解雇をした段階で懲戒解雇の理由にしていなかった事実を、事後的に(例えば訴訟になってから)懲戒解雇の理由として追加できるのでしょうか。

 

この点、普通解雇の場合は、解雇の時点で使用者(会社)が認識していなかった事実でも、事後的に訴訟で追加して主張することは許されると考えられています。

 

これに対し、懲戒解雇は、企業秩序違反行為を理由とした制裁を行うものであるため、懲戒解雇の時点で使用者(会社)が認識していなかった事実は、特段の事情のない限り、事後的に訴訟で追加して主張することは許されません(最判平成8年9月26日)。

 

なお、使用者(会社)が認識はしていたが懲戒解雇の理由としていなかった事実について、事後的に訴訟で追加して主張できるかについても、否定的に考えている見解が多数を占めます。

 

4.普通解雇と懲戒解雇いずれを選ぶか

以上のように、①懲戒解雇は厳格な法規制を受けること、②解雇予告手当や退職金を支払わないために懲戒解雇を選択する必要はないこと、③普通解雇と異なり、原則として懲戒解雇は事後的に(例えば訴訟になってから)懲戒解雇の理由の追加ができないことからすれば、懲戒解雇は相当慎重に実施する必要があるでしょう。

 

この点、懲戒解雇事由が存在していたとしても、その事実を理由に普通解雇の規定を適用して普通解雇することに問題はありません。

 

むしろ、懲戒解雇が可能な場合でも、あえて普通解雇を選択することは実務上よく行われていることです。

 

そこで、個別のケースにはよるのですが、当事務所では、懲戒解雇を検討する場合でもあえて普通解雇をお勧めすることがよくあります。

 

また、非常に悪質な事案で、懲戒解雇を実施する場合でも、同時に普通解雇の意思表示は必ず行うようにアドバイスをしています。

 

5.千瑞穂法律事務所ができること

千瑞穂法律事務所では、使用者側の人事労務(労働)問題を多数扱っており、問題社員対応や解雇・懲戒、ハラスメント、退職勧奨、メンタル、労働組合、残業代問題、競業トラブルといった会社の課題について、会社側としてサポートしております。詳しくは、下記一覧をご参照ください。

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