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会社が知っておくべき出向・転籍を弁護士が解説

1 出向・転籍の意義

出向とは、労働者が雇用先の企業(出向元)における従業員たる地位を保持したまま他の企業の従業員や役員になって当該企業(出向先)で相当期間にわたって業務に従事することをいいます。

また、転籍は雇用先企業との間の労働契約を終了させ、労働者が他企業の業務に従事することをいいます。転籍は、労働者と雇用先企業との労働契約が終了することに対し、出向は雇用先企業との労働契約関係が継続するという点で違いがあります。

出向・転籍と比較される概念として「配転」がありますが、配転は同一企業内での異動であるのに対し、出向・転籍は他の企業の業務に従事することになるという点で違いがあります。

2 出向・転籍の要件

出向・転籍を命じるためには、以下の①~③の要件が満たす必要があります。

  • 命令権の根拠があること
  • 法令違反ではないこと
  • 命令権の濫用がないこと

それぞれの要件について、ご説明いたします。

⑴①命令権の根拠があること

ア 出向の場合

上記のとおり、出向は、他企業の業務に従事する(労務提供の相手方が変わる)ことになるため、出向を命じるためには「労働者の承諾」を得る必要があります(民法625条1項)。

出向について労働者の個別的同意がある場合は、「労働者の承諾」があり、出向命令権の根拠があると考えられるため、基本的には出向を命じるにあたって個別的同意を得ておくことが望ましいと考えられます。

もっとも、判例では、個別的な同意がない場合でも、労働協約・就業規則の出向条項に加えて、出向期間、出向中の地位、出向先での労働条件等について労働者の利益に配慮した規程が存在する事案で出向命令の有効性を認めているものがあります(新日本製鐵(日鐵運輸第2)事件・最二小判平成15・4・18)。

イ 転籍の場合

転籍は、上記のとおり異動元企業との労働契約を終了させ、異動先の企業との間の新たな労働契約を成立させることを要素としているため、転籍を命じるにあたって労働者の個別的な同意が必要と考えられています。

⑵②法令違反ではないこと

国籍・思想信条・社会的身分を理由とする差別に該当する場合(労基法3条違反)、性別を理由とする差別に当たる場合(男女雇用機会均等法6条違反)、組合活動の妨害を意図した不当労働行為に該当する場合(労組法7条1項違反)等強行法規に違反する場合は、無効となります。

⑶③命令権の濫用がないこと

労契法14条は、「使用者が労働者に出向を命ずることができる場合において、当該出向の命令が、その必要性、対象労働者の選定に係る事情その他の事情に照らして、その権利を濫用したものと認められる場合には、当該命令は、無効とする。」と定めています。

出向命令や転籍命令の行使が権利濫用に当たるか否かは、配転命令と同様に、ⅰ業務上の必要性、ⅱ人選の合理性、ⅲ労働者側の生活関係・労働条件等における不利益の程度、ⅳ手続きの相当性等を考慮して判断されます(なお、配転についてはこちらをご確認ください)。

もっとも、出向や転籍は、労務提供の相手方が変わる等配転と比較して労働者に与える影響が大きいため、権利濫用に該当するか否かは配転よりも厳しく判断されると考えられます

権利濫用に関する裁判例には、仕事のミスをした労働者に対して遠隔地の会社への出向命令を行った事案について、権利濫用と判断したもの(新日本ハイパック事件・長野地松本支決平成元・2・3)、退職勧奨を断った原告らが翻意し、自主退職に踏み切ることを期待して行ったとして出向命令を権利濫用としたもの(リコー子会社出向事件・東京地判平成25・11・12)、寝たきりの両親と同居して面倒を見ていた労働者に対する遠隔地への出向について権利濫用に当たるとしたもの(日本ステンレス事件・新潟地高田支判昭和61・10・31)等があります。

3 出向中・転籍後の労働関係について

(1)出向中の場合

出向中は、出向元の企業と労働者の間の労働契約関係は存続しますが、労働契約上の権利義務の一部は出向元から出向先に譲渡され、分属すると考えられています。

どの権利義務が譲渡されるのかは、通常当事者間の合意で定めることになりますが、明示の定めがない場合には、黙示の合意や信義則による補充的解釈がなされます。

具体的には、労務提供に関する権利義務は出向先に移り、労働契約関係の存否・変更に関する権利義務は出向元に残ると考えられています。

(2)転籍後の場合

転籍の場合、転籍元との労務関係が終了し、転籍先との労働契約関係が成立することになるため、出向とは異なり転籍先の企業のみが使用者としての義務を負うと考えられます。

もっとも、転籍期間満了後の復帰を約する確認書が存在していたことから期間満了後に復帰することを認めた裁判例(京都信用金庫事件・大阪高判平成14・10・30)等があり、特約等がある場合は転籍元企業も使用者と解される可能性はあります。

4 出向命令・転籍命令を行う企業のために千瑞穂法律事務所ができること

上記のとおり、出向・転籍は、配転の場合と比較して労働者に与える影響が大きいため、①命令権の根拠の存在や③命令権の濫用の有無について厳格に判断される可能性があります。広島の千瑞穂法律事務所では、就業規則の作成・変更や出向命令や転籍命令の前のリーガルチェック等を行い、敗訴リスクを下げるための対応についてサポートさせていただきます。お気軽にご相談ください。