千瑞穂法律事務所では、顧問先の会社の方から、ある日突然、社員と連絡が取れなくなり、その社員の家族から「事情により本人はしばらく出勤できません、私もよく分からないのですが、逮捕されたようです」といった連絡を受けました。どのように対応すべきでしょうかといったご相談を受けることがあります。
そこで、本記事では、社員が逮捕された場合にどのような対応をとるべきかについて、ご説明します。
目次
1.社員が突然出社しなくなった場合の対応方法
逮捕が行われる場合、本人にとっても寝耳に水であることが多く、会社側としては「ある日突然来なくなった」という状況になることが一般的です。
この場合、会社としては、まずはその社員の家族に連絡を取り、状況を確認するべきでしょう。
家族が状況を把握していれば、この段階で逮捕等の事実が発覚することになりますが、家族にも連絡がない場合には、警察や弁護士から会社に連絡があって初めて状況が判明することもあります。
社員が逮捕されたことが分かった場合、次にするべきことは、その社員が逮捕されている警察署等を訪問し、本人と面会することです。
この場合、警察に訪問前の電話連絡を行い、面会できるか否か(接見禁止となっていないか)、できるとして時間帯はいつか(取調べ中などの場合、面会できない)を確認しておくことが望ましいでしょう。
本人と面会できたら、事実確認を行うことになります。具体的には、①いつ、どこで、誰に(何に)、どのようなことをした容疑で逮捕されたのか、②その容疑事実を認めているのか、③いつ、どこで、どのように逮捕されたのかを確認しておく必要があります。
このような事実確認を終えた段階で会社としての対応や方針を本人に伝えることもありますが、本人が事実関係を認めているか否かで対応が異なる場合も多いため、「本日お聞きしたことを踏まえ対応を検討します」と回答して一旦は持ち帰るべきでしょう。
なお、実務では、この段階で本人が退職の意向を示されることも少なくありません。そのような場合に備えて、退職願の雛形を持参しておくことも有効です。
おって、家族や警察、弁護士から連絡があった場合や本人と面会できた際には、その際の会話内容を記録化するため、電話聴取書や面会票などを作成しておくことを強くお勧めします。
2.逮捕された理由が分からない場合の対応方法
1の流れで逮捕された理由が判明すればよいのですが、本人が「プライベートでの行動であり、業務と関係がないため話したくない」、「弁護士から話すことを止められている」などと発言し、逮捕された理由を説明しないことがあります。このような場合、会社はどのように対応すればよいのでしょうか。
そもそもですが、裁判例は、労働者の職場外における行為について、「企業秩序に直接関連するもの、あるいは、企業の社会的評価を毀損するおそれがあるものについては、懲戒処分の対象となり得る」としています(論点体系判例労働法3 菅野和夫ほか 第一法規 181頁参照)。
ところが、本人が逮捕の理由やその認否について会社に説明しない場合、会社は本人の行動が「企業秩序に直接関連するもの、あるいは、企業の社会的評価を毀損するおそれがあるもの」であるか否かを判断できません。
一方で、社員が逮捕されているという事実からすれば、何らかの犯罪を犯した可能性が高く、事実確認を行う必要性は高いといえるでしょう。
そこで、会社としては、その社員に対し、その犯行が「企業秩序に直接関連するもの、あるいは、企業の社会的評価を毀損するおそれがあるもの」なのか否かを判断できる程度に具体的な報告を求めることができると考えます。
会社がこうした報告を求めたにもかかわらず、本人があくまで逮捕理由を説明しない場合、個別の状況にもよりますが、「●月●日までに説明を行わない場合、業務に関連する犯罪行為を行ったものとして懲戒処分することを検討せざるを得ない」と明示した文書を交付することも考えられます。
こうした警告を数回繰り返してもなお本人が説明を拒否する場合、業務に関連する犯罪行為を行ったものとして重い懲戒処分(懲戒解雇を含む)を科すことも選択肢になるでしょう。
ただし、こうした対応はあくまで最終手段であるため、労働問題に強い弁護士に相談のうえ、個別の状況に応じた助言を受けておくべきと考えます。
3.職場外の犯罪行為に対する懲戒処分等について
事実関係が確認できた後は、会社としてどのような対応をとるべきか検討を行うことになります。
犯罪行為が報道等される可能性がある場合、速やかに検討を行うべきでしょう。「元社員」として報道されるか否かだけでも影響が異なってくるからです。
対応方法ですが、まずは懲戒処分の可否を検討することになるのが一般的です。
このとき、「悪いことをしたのだからクビだ」といった発想になりがちなのですが、原則としては私生活上の犯罪行為について会社が懲戒処分を科すことはできないことに注意が必要です。
というのも、使用者である会社は、仕事と関連のない私生活上の行為について、労働者に対して注意等を行う立場にはないからです。
もっとも、社員が私生活において犯罪行為を行った場合に、会社が常に何もできない訳ではありません。
前述したように、裁判所は「企業秩序に直接関連するもの、あるいは、企業の社会的評価を毀損するおそれがあるものについては、懲戒処分の対象となり得る」としています。
そこで、こうした要件を満たす場合には、会社はその社員に対して懲戒処分を科すことができることになります。
そして、企業秩序に直接関連するか、企業の社会的評価を毀損するおそれがあるかについては、犯した犯罪の態様や程度、刑罰の内容、行為者の地位、前科前歴等の有無、会社の規模や業態、犯罪行為の報道の有無・内容(会社名が出ているか)等の事情が総合的に考慮されることになります(最判昭和49.3.15民集28巻2号265頁、最判昭和45.7.28民集24巻7号1220頁、東京高判平成15.12.11参照)。
こうした複数の要素が総合考慮されることから、具体的にどのような対応ができるかは、ケースバイケースの判断になります。
また、懲戒処分ができるか否かは、その会社の就業規則にどのような定めが設けられているかといった事情にも左右されます。
さらには、逮捕されたからといって社員が犯罪行為を行ったと断定できる訳でもないため(無罪になる可能性もある)、どの段階で処分を科すのかも慎重に検討しておく必要があります。
なお、懲戒処分を科すことを検討される際には、懲戒処分を行う場合の注意点を記載したこちらの記事もご参照ください。
懲戒処分について検討を行った後、その必要はない、または要件を満たさないとなった場合でも、退職勧奨を行うという選択肢はあります。
一般的な退職勧奨の進め方については、こちらの記事もご参照ください。
ただし、退職勧奨をその社員が逮捕や勾留されている最中に行う場合、本人が自由な意思で退職に応じたのか疑義が生ずる可能性があるため、丁寧な会話を行い、対話票などの書面化もしておくべきでしょう。
4.千瑞穂法律事務所ができること
サポート内容 | |
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人事労務 | |
人事労務に関する相談・助言 | 問題社員対応やハラスメント、労働条件、残業代、メンタルヘルス、懲戒処分、解雇・退職、競業・従業員引抜き、労災、団体交渉など、あらゆる人事労務問題についてご相談に応じます。 |
問題社員解決サポート | ・問題社員ごとの対応策の検討 ・対応策の実行管理・指導 ・関連書類の作成 ・弁護士による従業員との面談 |
ハラスメント問題解決サポート | ・ハラスメント対応プラン策定 ・関連書面の作成 ・関連証拠の確保サポート ・弁護士による従業員への事情聴取 ・ハラスメント該当性判断 ・調査結果通知書等の作成 |
退職勧奨サポート | ・退職勧奨プランの作成 ・退職勧奨プラン実行管理・指導 ・関連書面の作成 ・弁護士による従業員との面談 ・退職合意書等の作成 |
解雇・懲戒サポート | ・解雇・懲戒に関する事前検討 ・解雇・懲戒手続の実施管理 ・解雇・懲戒処分通知書等の作成 ・弁護士による従業員への事情聴取 ・弁明の機会付与への同席 |
メンタルヘルス問題対応サポート | ・メンタルヘルス問題対応プラン策定 ・関連書面の作成 ・休職の要否判断 ・復職の可否判断 ・従業員への通知書面の作成 |
労働組合対応サポート | ・要望書等に対する対応検討 ・労働組合への回答書面作成 ・想定問答集等の準備サポート ・団体交渉への立会い ・弁護士による労働組合との交渉 |
残業代問題解決サポート | ・残業代の有無・金額の算定 ・弁護士による従業員との交渉 |
競業問題解決サポート | ・競業避止義務の有無や損害額の算定 ・相手方への文書作成・送付 ・弁護士による相手方との交渉 ・引抜き・競業防止に関する規定の整備 |
就業規則・社内規程等の改訂・整備 | ・法的リスクチェック ・就業規則等の修正・作成 |
契約書・規約等 | |
契約書・規約等の法的リスクチェック 契約書・規約等の作成 | |
債権回収 | |
内容証明郵便の作成・送付 | |
支払督促 | |
強制執行(財産開示手続等を含む) | |
顧問・取引先・行政機関対応 | |
顧問・取引先・行政機関対応アドバイス | |
弁護士による顧問・取引先との交渉 | |
弁護士による行政機関対応 |
千瑞穂法律事務所の顧問プランについてはこちらをご覧ください。
5.社員が突然出社しなくなった場合のご対応に関する弁護士費用
初回ご相談は無料です。その他弁護士費用についてはこちらをご覧ください。
6.ご相談の流れ
千瑞穂法律事務所に企業法務にまつわるご相談や各種お困りごと、顧問契約に関するご相談をいただく場合の方法をご説明します。
【1】 お電話の場合 「082-962-0286」までお電話ください。(受付時間:平日9:00〜17:00) 担当者が弁護士との予定を調整のうえ、ご相談日の予約をおとりします。
【2】 メールの場合 「お問い合わせフォーム」に必要事項をご入力のうえ、送信してください。(受付時間:年中無休) 送信いただいた後に担当者からご連絡し、ご相談日の予約をおとりします。
※ 夜間や土日のご相談をご希望のお客様については、できるかぎり調整しますのでお申し出ください。
見積書をご確認いただき、ご了解いただいた場合には、委任状や委任契約書の取り交わしを行うことになります。
この場合、当該案件について電話やメールによるご相談が可能です。
進捗についても、適時ご報告いたします(訴訟対応の場合、期日経過報告書をお送りするなどのご報告をいたします)。
特に社員が報道されるような犯罪行為を起こしてしまった場合、会社への影響を最小限にするためにも速やかに対処する必要がありますので、早い段階でご相談いただければと思います。
また、当法律事務所では、個別のケースごとに、懲戒処分を科すことができるか否か、できるとしてどのような処分をするべきかについて法的助言を行っているほか、代理人として本人に退職勧奨を行うといったことも行っています。
千瑞穂法律事務所には、使用者側の労働問題に精通した弁護士が多数所属しておりますので、「問題になりそうだな」と思ったら、お気軽にご相談ください。具体的には以下のようなサポートを行っております。