企業が事業の一部を廃止する場合や営業所・工場の一部を廃止する場合に、経営者としては、廃止される事業を職務としていた社員や廃止する営業所での職務にのみ従事していた労働者の整理解雇を検討することは少なくないかと思います。
もっとも、このような整理解雇を行うにあたって、当該社員に以下の職種限定合意や勤務地限定合意が認められる場合には、通常の整理解雇とは対応が異なりますので、本記事で解説いたします。
1 職種限定合意や勤務地限定合意とは
職種限定合意とは、労働契約において、労働者を一定の職種に限定して配転する旨の使用者と労働者の合意をいいます。
職種限定合意は労働契約上明示されている場合のほかに、職務に特殊の技能や資格を要することや採用時に他の職種と異なる選考試験があること、職種別の賃金体系があること、入社後特別の訓練要請を経て一定の技能に熟練したこと、他職種への配転実績が乏しいことなどが認められる場合には、黙示的な職種限定合意が認められる傾向にあります。
他方で、勤務地限定合意とは、労働契約において、労働者を一定の勤務場所に限定して配置する旨の合意をいいます。
勤務地限定合意は労働契約上明示されている場合のほかに、労働者の生活の本拠が固定されていることや求人票に勤務場所を特定する記載があること、他勤務地への配転実績が乏しいことなどが認められる場合には、黙示的な勤務地限定合意が認められる傾向にあります。
以上のように、職種限定合意や勤務地限定合意が認められるのは、企業と労働者との間で明示的に合意している場合に限定されません。そして、以下に述べるように、職種限定合意や勤務地限定合意が認められる場合には、整理解雇時の対応が通常の労働者と異なるため、企業としては、職種限定合意や勤務地限定合意が成立しているかについて慎重に検討する必要があります。
2 整理解雇が認められる場合とは
整理解雇とは、企業が経営上必要とされる人員削減のために行う解雇のことをいいますが、整理解雇は、労働者の私傷病や非違行為などの労働者に帰責事由がないにもかかわらず、使用者の経営上の必要性に基づき労働者を解雇する点に特徴があり、労働者に帰責事由が認められる解雇と比べて、解雇の有効性は厳格に判断されます。
具体的には、整理解雇が認められる否かは、①人員削減の必要性があること、②使用者が解雇回避努力をしたこと、③被雇用者の選定に妥当性があること、④手続に妥当性があること、という4要素を総合考慮して判断されます(東京地決平成28年3月24日労判1167号94頁、大阪地判平成12年12月1日労判808号77頁等)。
整理解雇の上記要素(要件)については、記事(会社が知っておくべき「整理解雇」の手続き(整理解雇の4要件))で詳しく解説しておりますので、参考にしてください。
3 職種限定合意や勤務地限定合意が認められる場合の解雇回避努力義務
職種限定合意や勤務地限定合意がある労働者の整理解雇の際には、上記各要素のうち、特に②使用者が解雇回避努力をしたことが問題となります。
解雇回避努力義務とは、信義則上、使用者が人員削減を行う場合には、労働者をいきなり解雇するのではなく、広告費・交通費・交際費等の経費削減、役員報酬の削減、残業規制、従業員に対する昇給停止や賞与の減額・不支給、賃金減額、ワークシェアリングによる労働時間の短縮や一時帰休、中途採用・再雇用の停止、新規採用の停止・縮小、配転・出向・転籍の実施、希望退職者の募集などの他の手段によって労働者の解雇を避ける努力をしなければならないという義務をいいます。
これらの解雇回避努力措置は画一的に判断されるのではなく、「企業の規模や経営状態、整理解雇の目的等に応じて、個別事案ごとに、実施された解雇回避措置が経営上の努力として相当かどうか」判断されます。
企業としては、事業の一部を廃止する場合や営業所・工場の一部を廃止する場合に、職種限定合意がある労働者や勤務地限定合意がある労働者に対して、解雇回避努力措置の一環として、配置転換命令を行うことを検討することが多いかと思います。
しかし、最高裁は、労働者が従事していた職種が会社内から消滅することを理由として、職種限定合意がある労働者に対して解雇回避のために職種限定合意の範囲外の職種に配置転換する命令の有効性が争われた事案において、「労働者と使用者との間に当該労働者の職種や業務内容を特定のものに限定する合意がある場合には、使用者は、当該労働者に対し、その個別的な同意なしに当該合意に反する配置転換を命ずる権限を有しないと解される。」と判示し、職種限定合意がある場合には、労働者の同意がないと他職種への配転命令は無効になることが明らかにしました(最判令和6年4月26日)。
そのため、企業としては、職種限定合意がある労働者に対しては、労働者の個別的な同意がない場合には、一方的に配置転換を命ずることはできないため、企業としては、他の職務への配置転換の打診をすることが求められることになります(勤務地限定合意がある場合についても同様に考えられます)。
当該労働者の個別的な同意を得ることができず、配置転換を行えなかった場合でも、配置転換の打診をしたこと自体が、企業が実施した解雇回避努力措置として考慮され、整理解雇が認められる方向の事情となります。
以上より、職種限定合意や勤務地限定合意がある場合で、労働者の配置転換に関する個別的な同意のないときには、これらの同意がない労働者の整理解雇とは異なり、配置転換を実施する必要はなく、整理解雇が容認されやすくなると考えられます。
もっとも、整理解雇は依然として厳格に判断されるものであるため、整理解雇を実施される場合には、事前に専門家にご相談されることをおすすめいたします。
4 千瑞穂法律事務所ができること
廃止される事業を職務としていた社員や廃止する営業所での職務にのみ従事していた労働者の整理解雇を行うにあたっては、職種限定合意や勤務地限定合意が成立しているか慎重に検討する必要があるとともに、解雇回避努力措置として実施すべき措置の内容や整理解雇が認められるのかについて慎重に検討する必要があります。
会社による解雇回避努力措置としての配転命令や整理解雇が違法、無効と判断された場合には、労働者から損害賠償請求をされる事態にもつながるため、整理解雇の検討段階でご相談いただければと思います。
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