高年齢者等の雇用の安定等に関する法律(いわゆる高年法)では、企業(事業主)は雇用する労働者の65歳までの安定雇用を確保することが義務付けられています。
しかし、すべての社員に対して定年直前と全く同一の労働条件や職種での雇用を継続することは、企業にとって負担が大きいのが実際のところでしょう。
そこで、例えば高待遇の専門職向け制度と、簡易的な業務向けの低待遇な制度の二種類を設けることは可能なのでしょうか。
本記事では、定年後再雇用において複数の制度を設けることが認められるのか、また定年後再雇用の制度設計にあたって会社が注意すべき実務上のポイントについて、実際の裁判例(令和元年10月24日東京高裁判決)を踏まえてご説明します。
1.高年齢者等の雇用の安定等に関する法律(いわゆる高年法)の要請と定年後再雇用制度の現状
高年齢者等の雇用の安定等に関する法律(いわゆる高年法)9条は、「定年の定めをしている事業主は、その雇用する高年齢者の65歳までの安定した雇用を確保するため、次の各号に掲げる措置(以下「高年齢者雇用確保措置」という。)のいずれかを講じなければならない。」と定めており、雇用する労働者の65歳までの安定雇用を確保することを要請しています。
もっとも、同法は、定年直前と同一の労働条件・職種での雇用までを義務付けているわけではありません。同法の趣旨に反しない限り、労働条件は個々の事業主の実情に応じた多様かつ柔軟なものとすることが許容されています。
そのため、多くの企業では定年直前の労働条件とは異なる業務・職種での再雇用制度を設けており、賃金が数割低くなることも少なくありません。
2.複数種類の定年後再雇用制度は認められるのか
それでは、例えば高待遇の専門職向け制度と、簡易的な業務向けの低待遇な制度といった複数種類の定年後再雇用制度を設けることは可能なのでしょうか。
この点、実際の裁判(令和元年10月24日東京高裁判決)で、正社員に近い待遇で運転業務を行う「継匠社員制度」と、清掃業務等を行い賃金が継匠社員の約45%となる「再雇用社員制度」の二種類を設けた会社の対応が適法と判断されました。
以下では、上記裁判例を踏まえつつ、複数種類の定年後再雇用制度を設ける際の注意点等をご説明します。
(1)多様かつ柔軟な労働条件の設定
上記裁判例で、裁判所は、高年法9条1項は事業主に雇用継続の努力を求めるものであり、直ちに特定の労働条件での契約を強制したり、違反する契約を無効にしたりする私法的効力はないと判断しました。
したがって、一方は定年前と同じ業務、もう一方は清掃などの異なる業務とし、給与水準が大きく異なるような二種類の制度を設けること自体は、直ちに違法とはなりません。
(2)「希望者全員」の受け皿の確保
一方で、高年法は継続雇用制度において「希望者全員」を対象とすることを求めています。
そのため、高待遇の制度(上記裁判例では継匠社員)に選抜基準を設けることは許容されますが、その基準から漏れた人に対しても、単純に「雇い止め」にするのではなく、別の形態(上記裁判例では再雇用社員)で雇用を継続する仕組みが必要です。
このように、何らかの職務で希望者全員を雇用する枠組み(受け皿)が存在する以上、段階を分けた複数種類の定年後再雇用制度を設けること自体が高年法の趣旨に反するとはいえないと考えられます。
3.制度を分ける際に会社が注意すべきこと
以上のように複数種類の定年後再雇用制度を設けること自体は可能ですが、労働者をいずれの制度に振り分けるかについては、以下の点に注意する必要があります。
(1)選抜基準の客観性と合理性
高待遇の制度に振り分ける際の選抜基準は、恣意的であってはならず、客観的で合理的なものである必要があります。
例えば、上記の裁判例では、「定年前の直近過去5回の昇給・昇進評価において、最低評価(C評価)が3回以上ないこと」という要件が合理的とされました。また、業務や残業への協力姿勢を評価対象とすることも、企業の性質に照らし「不合理ではない」と判断されています。
このように複数の定年後再雇用制度を使い分ける場合、合理的な内容の人事評価制度を設け、その運用まで公平かつ平等に行っておく必要があります。
筆者としては、定年の数年前には、対象となっている労働者がこのままであれば低待遇の定年後再雇用になってしまうことを認識でき、本人の努力次第で高待遇の制度で再雇用されるような機会を与えておくことが特に重要なポイントであると考えています。
(2)不当労働行為(組合差別)の禁止
特に企業内に組合が存在するような場合に注意が必要なことですが、特定の労働組合に所属していること等を理由に恣意的に低い査定を行い、処遇の低い制度へ振り分けることは不当労働行為(組合差別)となり違法となります。
そこで、組合差別になりうるような状況がある場合、基準とする人事評価が特定の組合員を排除するための意思に基づくものでないことを示すことができるだけの客観的な記録を残しておく必要があるでしょう。
なお、組合員の場合でなくとも、どのように選抜したのかといった客観資料を残しておくことは重要です。
(3)労働条件の格差と不利益変更への配慮
複数の制度間で賃金や職務内容に大きな差がある場合、その合理性が問われます。
上記の裁判例では、処遇の低い制度の給与が約45%とされ、業務内容が運転から清掃へ変更されたこと自体は直ちに違法とはされませんでした。
しかし、同一労働同一賃金(パートタイム・有期雇用労働法)の観点から、待遇差が不合理と判断されないよう、職務内容や責任の範囲に明確な差を設けることが不可欠です。
また、すでに再雇用制度が存在する会社が改めて複数種類の定年後再雇用制度を設ける場合、労働条件の不利益変更の問題が生じます。
一定の要件を満たせば、労働条件の不利益変更は可能ですが、争いになることも多いため、このような場合には人事労務問題に詳しい弁護士や社会保険労務士等の専門家に相談されることをお勧めします。
なお、処遇の低い制度の労働条件が極めて苛酷であり、現実には多数が退職してしまうような制度は無効となるリスクがあることにはご留意いただければと思います。
(4)適切な労使協議のプロセス
複数種類の定年後再雇用制度の導入や選抜基準の設定にあたっては、労働組合や従業員代表と十分に協議を尽くすことが極めて重要です。
上記裁判例でも、多数派労働組合との度重なる労使交渉を経て制度が成立したという経緯が、制度の合理性を肯定する重要な根拠の一つとされています。
少数派労働組合や非組合員がいる場合でも、誠実に協議を行い、一方的な変更と受け取られないような合意形成の努力を行っておくべきでしょう。
4.千瑞穂法律事務所ができること
千瑞穂法律事務所では、過去の裁判例などを踏まえ、複数種類の定年後再雇用制度の構築や選抜基準の作成、対象者の振り分け方法について、具体的な見直しやリーガルチェックなどを行っております。
複数制度の導入など、定年後再雇用制度の設計や見直しについてお悩みの企業様は、お気軽に当事務所にご相談ください。
人事労務に関することでお悩みの企業の方はお気軽にご連絡いただければと思います。また、当事務所は、社会保険労務士の先生の業務サポートも行っております。詳しくはこちらをご参照ください。
5.お問い合わせはこちらからどうぞ
本HPからお問い合わせいただく場合、初回のご相談は無料です。以下のフォームからお気軽にお問い合わせください。




















