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社外での盗撮行為を理由とする懲戒解雇は有効か?控訴審での逆転事例

社外での従業員の不祥事が発生した場合、会社が従業員の処分に悩むことは少なくありません。というのも、懲戒解雇などの厳しい処分は処分が重すぎるとして無効になることがあるからです。

社外での従業員の不祥事が発生した場合、会社が従業員の処分に悩むことは少なくありません。というのも、懲戒解雇などの厳しい処分は処分が重すぎるとして無効になることがあるからです。

執筆者(健一郎)バナー

1.事案の概要

本件は、Y株式会社(以下「会社」といいます。)に雇用されていた従業員である労働者Xが、会社から受けた令和5年9月21日付けの懲戒解雇(以下「本件懲戒解雇」といいます。)が無効であると主張し、労働契約上の権利を有する地位にあることの確認及び未払賃金等の支払いを求めて提訴した地位確認等請求控訴事件です。第一審(地方裁判所)の判決を経て、名古屋高等裁判所にて控訴審判決が言い渡されました。

事案の発端は、労働者Xが、勤務時間外である通勤途上の名古屋市営地下鉄の電車内において、自己の所有する小型カメラを録画状態にしてリュックサック内に設置し、口を開いたリュックサックを足元に置いて、被害者のスカート内を撮影しようとした盗撮行為(以下「本件行為」といいます。)に及び、逮捕されたことでした。

労働者Xは、令和4年の夏頃から同様の手口で盗撮をしていたと供述しており、一過的なものではない行為であると認定されています。もっとも、本件行為については、被害者との間で示談が成立し、刑事事件としては不起訴処分となっていました。また、本件懲戒解雇がなされた当時、この事件について実名等での報道はなされておらず、労働者Xの欠勤も逮捕期間中の2日間にとどまっていました。

第一審判決では、本件行為が職場外で行われたことや、上記の事情を考慮し、本件懲戒解雇は懲戒処分としての相当性を欠き、懲戒権を濫用したもので無効であると判断され、労働者Xの請求が一部認められました。これに対し、会社側が不服として名古屋高等裁判所へ控訴しました。

2.本件の争点

本件の最大の争点は、「勤務時間外の社外で起こした不祥事(盗撮行為)を理由とする懲戒解雇が、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められないとして無効になるか否か」でした。

労働者Xは、示談成立や不起訴処分、報道がされていないこと、自身の平素の勤務成績が良好であったことなどから、会社の信用毀損や業務への支障は大きくなく、解雇は重すぎると主張しましたが、最終的に、名古屋高等裁判所は、労働者Xの行為の悪質性や、盗撮に対する社会的な非難の高まり、そして会社の事業内容、日頃からの社内周知の徹底等を総合的に考慮し、第一審判決を取り消して本件懲戒解雇を有効と判断しました。

3.社外での不祥事(私生活上の非違行為)を理由とする懲戒処分の有効性についての実務上の多数的な見解

一般的に、労働者は労働契約に基づき、会社の企業秩序を遵守する義務(企業秩序遵守義務)を負っています。しかし、労働者が勤務時間外に社外で行った私生活上の行為は、本来、会社の直接的な指揮命令や管理の及ばない領域の出来事です。そのため、私生活上の不祥事がいかなる場合でも直ちに懲戒処分の対象となるわけではありません。

過去の裁判例等において確立されている通説的な考え方では、私生活上の非違行為が懲戒処分の対象となるのは、「その行為の性質、内容、結果等からして、企業の社会的評価を毀損するおそれがある場合」や、「企業の円滑な業務運営に具体的な支障をきたすおそれがある場合」に限定されると解されています。

特に、懲戒処分の中でも従業員の地位を奪う最も重い「懲戒解雇」を選択する場合、その有効性が認められるハードルは極めて高く設定されており、「客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない」として無効とされることも少なくありません(労働契約法第15条参照)。

具体的に、社外での不祥事で懲戒解雇が有効とされるか否かの判断においては、以下のような要素が総合的に考慮されます。

第一に、行為自体の性質と悪質性です。重大な犯罪行為(殺人、強盗、重大な性犯罪など)であれば、解雇の有効性は当然に認められやすくなります。

第二に、刑事処分の結果です。起訴されて有罪判決を受けたか、あるいは不起訴処分や示談で解決したかが重要な指標となります。

第三に、会社の事業の性質と労働者の地位です。公共性の高い事業(鉄道、バス、郵便、教育機関など)や、高い倫理性が求められる職種においては、社会的評価の低下が大きくなるため、処分が重く認められる傾向があります。

第四に、実名報道の有無等による現実的な信用毀損の程度です。一般的には会社名などまで報道された場合、信用毀損の程度が大きいといえます。

こうした要素を踏まえた場合、本件については示談が成立していたこと、不起訴となっていたこと、未報道であったことから、懲戒解雇は無効(権利の濫用)となるリスクが高いというのが、これまでの実務における一般的な見立てといえるでしょう。

4.本件の裁判例の意義

⑴本件裁判例がどういった意味で注目されているのか

本件裁判例が実務上注目されているのは、労働者側にとって有利な事情(不起訴処分、被害者との示談成立、事件の未報道、欠勤期間の短さ)が揃っており、通常であれば「懲戒解雇は重すぎて無効」と判断されやすいケースであったにもかかわらず、控訴審で逆転して「懲戒解雇が有効」と認められた点にあります。

裁判所は有効と判断した理由として、社会情勢の変化を捉えました。本件行為の翌日に「性的な姿態を撮影する行為等の処罰及び押収物に記録された性的な姿態の影像に係る電磁的記録の消去等に関する法律」が施行され、盗撮行為に対する厳罰化が図られたことに言及し、行為当時の法定刑にかかわらず、盗撮に対する社会的な厳しい非難が高まっている状況を重視しました。

また、会社が郵便事業という公益性の高い事業を営んでいる点や、事件が報道されていなくても、ひとたび報道されれば致命的な信用毀損を招く潜在的危険性がある点などを指摘し、会社の事業へ与える悪影響を実質的に評価した点で、今後の同種事案における重要な試金石となる判決です。

⑵実務においてどのように参考にされるべきか

人事労務担当者や経営者が本件から参考にすべき点は、「会社として許容できない非違行為に対する厳格な方針を、日頃から明確に定め、従業員に周知徹底しておくことの重要性」です。

本件において名古屋高等裁判所は、会社が令和2年4月以降、盗撮や児童買春等の破廉恥事案について、原則として懲戒解雇で対処するという方針を策定し、ミーティング等を通じて全社員に繰り返し指導・周知していた事実を評価しました。

また、同種の盗撮事案において、有罪判決や報道の有無にかかわらず、一貫して懲戒解雇処分を行ってきたという「処分の公平性(平等取扱い)」の運用実績も認定の決め手となっています。

以上からすれば、実務上、社外での不祥事に対する厳しい処分を適法に行うためには、就業規則に懲戒事由を定めておくだけでは不十分であり、社会情勢の変化に合わせた具体的なコンプライアンス方針を明文化し、研修等で定期的に周知すること、そしていざ事案が発生した際には、過去の処分例と矛盾しない一貫した対応をとることが、会社の懲戒権の行使を正当化するために重要といえるでしょう。

5.弁護士からのコメント

社外での社員の不祥事、特に痴漢や盗撮といった事案は、会社が突然巻き込まれる頭の痛い問題です。「逮捕されたが不起訴になった」「報道はされていない」といった場合、懲戒解雇に踏み切るべきか、人事担当者は非常に悩まれると思います。

本件では、しっかりとした社内ルールの周知と一貫した運用があれば、未報道・不起訴の事案でも懲戒解雇が認められ得ることを示した判決です。

しかし、第一審では会社側が敗訴していることからも分かる通り、一歩間違えれば未払賃金の支払いリスク等を背負う険しい道のりでもあります。万が一の事態に備え、平時からルール整備や研修の実施しておくといった対応をされておくことをお勧めします。

6.千瑞穂法律事務所ができること

千瑞穂法律事務所では、使用者側の人事労務(労働)問題を多数扱っており、問題社員対応や解雇・懲戒、ハラスメント、退職勧奨、メンタル不調、労働組合、残業代問題、競業トラブルといった会社の課題について、会社側に立ってサポートしております。詳しくは、下記一覧をご参照ください。

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