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リストラ(整理解雇)と近年の裁判例について弁護士が解説

経営不振による不採算部分の廃止等経営上の理由により、やむを得ず従業員のリストラを選択されることもあると思います。このようなリストラは「整理解雇」と言われるところ、整理解雇は会社の経営状況が悪化していれば認められるというものではなく、実際には有効と判断されるためには、後述する4要素を踏まえた対応が必要となります。

今回は、整理解雇の4要素について簡単に触れた上で、近年の裁判例をご紹介したいと思います。リストラを検討される際、何をどこまでしなければならないのかという点の参考事例にしていただけますと幸いです。

弁護士 桝井 楓

1 リストラ(整理解雇)の4要素

整理解雇の有効性を判断するにあたって、過去の裁判例上、

  ①人員削減の必要性があるか

  ②企業が解雇回避努力を尽くしたか

  ③被解雇者の人選は合理的か

  ④解雇に至る手続は妥当か

の①~④が考慮されると考えられています。

 

これらの①~④の考え方については、「会社が知っておくべき「整理解雇」の手続き(整理解雇の4要件)」のコラムで詳しく解説しておりますので、ご確認ください。

2 近年の裁判例(東京地裁令和5年5月29日判決)

 ⑴ 事案

Y社(被告)は、世界最大級のクルーズ船運航会社の完全子会社であり、X(原告)はY社の従業員でした。Xは、Y社の行った解雇が無効であるとして、雇用契約上の権利を有する地位の確認、賃金の支払い等を求めて訴訟提起をしました。Y社は、令和2年2月から、新型コロナウイルスの影響で世界的にクルーズ船の運航が停止し、Y社の売上がなくなったことから、親会社から人件費削減を要請され、従業員に退職勧奨を行い、退職に応じなかったXを含む7名を令和2年6月30日付けで整理解雇していました。

 

 ⑵ 裁判所の判断内容

裁判所は、上記1で述べた整理解雇の4つの要素を総合考慮して、労働契約法16条の客観的合理的な理由及び社会通念上相当性があるかを判断するのが相当とした上で、各要素について以下のように判断しました。

ア 人員削減の必要性

判断内容

「Y社は、令和2年6月末の時点において、少なくとも将来にわたり1年程度は、売上げを得られない蓋然性が極めて高い状況にあったところ、Y社が再び売上げを得られる時期まで、従業員を雇ったまま賃金を支払い組織を維持するには、Y社が従来から運転資金を借り入れているA社(親会社)からのさらなる借入れにより人件費を賄うしかない状況であり、そのA社自身が、クルーズ船の運航停止により営業損失が拡大し、借入れにより船舶の維持費などの運転資金を調達する状況となっており、経費削減のため、Y社に対し、人件費を50%削減するよう要請してきたというのであるから、Y社としては、これに応じるほか組織を存続させる手段はなく、人員削減の高度の必要性があったと認めることができる。」

※Y社は、A社(親会社)のクルーズ船が運行を停止する前から、運転資金をA社からの借入金に依存していた。

 

イ 解雇回避努力

企業側が実施する解雇回避努力については、経費削減、役員報酬の削減、従業員に対する賃金減額、配転・出向・転籍の実施、非正規従業員との契約解消、希望地職者の募集等の対応に着目されます。ただし、解雇回避努力としてどこまでの対応が必要になるかは、人員削減の必要性の程度や企業の規模、業種等によって左右され、上記にあるような措置が一律に要求されるというわけではないと思われます。

経費削減

判断内容

・「Y社は、本件解雇を行うに当たり、経費削減のために、月額約2300万円であった販売費を月額200万円~400万円に大幅に削減したほか、月額300万円の出張旅費・交際費を全額削減し、大阪営業所を閉鎖した。」

・「年間約6000万円の負担を生じる事務所の賃料については、Y社は、一部区画を解除しようと貸主と交渉したが、貸主が解約を拒んだため解約はできなかった」

・「人件費の削減についても、4名いた派遣社員の契約を全て契約期間満了により終了させているほか、解雇に先立ち、人員削減の対象者23名に対し、特別退職金(Xについては月給の約4.7箇月分)の支払及び年次有給休暇の買取りの提案を伴う退職勧奨を実施しており、退職勧奨の対象とならなかった従業員及び役員については、その給与(報酬)を令和2年7月から同年11月まで20%削減した。

∴「以上のとおり、Y社は、解雇回避のため、一定の経費削減を行ったものと評価できる。」

希望退職者の募集をしなかったことについて

判断内容

「Y社は、希望退職者募集を実施しなかったが、Y社の正社員の従業員は約67名であり、これが5部門に分かれ、その部門内でもそれぞれ役割が細分化されていたところ、希望退職者を募集すると、上記各部門で枢要な役割を果たしている従業員が、希望退職者募集に応じて退職するおそれがあり、そうなると業務に支障が生じ、組織が存続できなくなる可能性が高かったと認められる。仮に、応募した者のうちY社が承認した者のみに早期退職を認めるという方法をとったとしても、いったん希望退職者募集に応じた者の帰属意識及び勤労意欲の低下は避けられず、組織の存続が困難になることに変わりはない。

そして、整理解雇は、事業組織の存続のために行われるものであるから、事業組織の存続という目標が達成できる範囲で、客観的に実行可能な解雇回避措置をとれば足りるもので、上記事情の下で、Y社において希望退職者募集をしなかったことをもって、解雇回避努力が不十分であったということはできない。」

解雇回避努力として、希望退職者の募集を行うことが選択肢の一つとなり、Xからも希望退職者の募集を行っていない点を指摘されていましたが、本事案ではY社が希望退職者の募集を行わなかった具体的な根拠があり、裁判所もその経営判断が正当と評価していると考えられます。

解雇を回避するために行うことが困難な措置があってもその判断に至った経営判断が正当と考えられれば、解雇回避努力を尽くしていると評価される可能があると思われます。

雇用調整助成金受給による解雇回避策について

  判断内容

・「Y社は、本件解雇をした令和2年6月30日時点において、退職合意書に同意しなかった7名の従業員に対し、雇用を維持したまま休業を命じ、雇用調整助成金の受給を受けることにより、社会保険料のほか、令和2年9月30日までは休業手当の5分の1、同年10月1日から令和3年1月頃までは休業手当の3分の1の金額を負担することで、令和3年1月頃までは雇用を維持することが可能であったと認められる。上記7名は、もともと人員削減もやむなしと判断した7名であったから、この7名が休業に嫌気がさして退職しても業務に著しい支障はなく、Y社の組織の維持の面では問題がないといえる。

しかし、本件解雇の時点において、新型コロナウイルス感染症の影響により、クルーズ船の運航再開の見通しは全く立っておらず、特に、Y社においては、本件クルーズ船が我が国における新型コロナウイルス感染症の集団感染の端緒となっていて、信頼回復には時間を要することが見込まれたことから、運航再開時期についての合理的な予測は、楽観的に考えても令和3年4月以降であり、現実的には令和3年以内は難しく令和4年以降と予測されていた。

そのため、Y社は、令和2年6月末の時点において、将来にわたり少なくとも1年程度(令和3年6月末頃まで)は、売上げを得られない蓋然性が高い状況にあった。そのような状況下において、令和3年1月頃まで雇用調整助成金を受給できるからといって、7名に対する解雇を回避し続けることができるという見通しを持つことは困難であると認められる

また、7名の雇用を維持すべく雇用調整助成金を受給した場合、Y社には、最低でも、社会保険料のほか、令和2年9月30日までは休業手当の5分の1、同年10月1日から令和3年1月頃までは休業手当の3分の1の各負担が発生するが、これら雇用調整助成金で賄えない経済的負担については、Y社はA社からの借入金に頼らざるを得ない状況であった。そして、Y社が、雇用調整助成金で賄えない経済的負担についてA社から借入れを受けるとしても、いつまで幾ら借入れを受ければ解雇回避ができるのか不明確な状況であった。」

∴「したがって、Y社において、本件解雇の時点において、雇用調整助成金を受給することにより解雇を回避しつつ人件費50%削減を達成できるといえる状況であったとは認められないから、上記事情の下で、Y社において雇用調整助成金を受給せずに直ちに解雇をしたからといって、解雇回避努力が不十分であったということはできない。」

➡本件は、雇用調整助成金を受給していませんでしたが、仮に受給をしても親会社であるA社(上記アのとおりA社も苦しい状況にありました)から借り入れをせねばならず、売上が得られるのがいつになるかもわからず、解雇を回避しつつ事業存続ができるか不明確であったことから、解雇回避努力が不十分であったと判断されませんでした。

ウ 人選の合理性

判断内容

・「Y社は、人員削減の対象者を選定する方法として、部門の従業員全員を対象として、一律に、当該従業員が担当しているポジションが業務再開時に必要か、及び、当該従業員が担当しているポジションの重要性・生産性を評価するとともに、従業員の年次評価及び新しい業務への適応能力等を評価して、これにより選定することとしており、選別方法に不合理な点はないと判断できる。」

・「Xが担当していた営業は運航停止により業務が縮小していたと認められるから、Y社がXのポジションの必要性は低いと判断した点について、不合理な点はない。」

・「Xが取引先……との間でトラブルを生じさせたこと、……自ら進んで電話対応を行おうとしなかったこと、……緊急事態において自ら考え、周囲と協力して業務を遂行する姿勢に欠けていたと評価されたことについては、相応の根拠があるというべきであり、……Xを本件解雇の対象者に選定したことが不合理であるとは認められない。」

➡裁判所は、選別方法、それに基づいてXを対象者に選定したことについて合理性を認めています。

 

エ 手続の妥当性

判断内容

「Y社は、人員削減の対象者に対し、個別に面談して、特別退職金の支払及び年次有給休暇の買取り等を提示した上で、退職勧奨を行い、・・・従業員の要望を踏まえ、同年6月15日付けとされていた退職日を同月30日付けに変更する旨の提案を行った。また、本件解雇前に実施された団体交渉においては、説明資料を交付してY社の財務状況を説明し、本件3名の質問を受けて、Xを人員削減の対象者として選定した理由、雇用調整助成金の利用しなかった理由及び希望退職者の募集を行わない理由について、それぞれ回答しており、Y社の応対には虚偽はなく、妥当なものと認められる。」

➡手続の妥当性の内容としては、労働者に対する説明、協議、労働組合等に対する説明・協議等が考慮されます。本裁判例では、従業員との交渉の経緯や団体交渉での説明内容等を評価して手続の妥当性があると認定しています。

自社のみで整理解雇を進める場合、上記の対応が不十分であることが多く、注意が必要となります。

オ まとめ

上記ア~エにより、裁判所は整理解雇の4要素を総合考慮して、本件整理解雇は有効であると判断しました。

本件は、事例判断ではありますが、特に上記イの解雇回避努力について、何をどの程度行うべきか、万が一裁判になったときのことを想定してどのような準備をしておくべきか等の観点から、参考になる裁判例と考えられます。

 

3 千瑞穂法律事務所にできること

千瑞穂法律事務所では、使用者側の人事労務(労働)問題を多数扱っており、本件のようなリストラ(整理解雇)に関しても多くの企業様にアドバイスをさせていただいております。

冒頭でも述べましたが、従業員のリストラ(整理解雇)は、経営状況が厳しければ有効となるものではなく、解雇を回避するための努力も実現可能な範囲で尽くす必要があり、従業員への説明、協議等の手続面での対応も要求されます。

また、整理解雇の4要素の観点から何をどこまですべきかは、事案やそれぞれの企業の状況等により異なり、一方で整理解雇が違法と判断され、従業員への賃金支払いが命じられると一層窮地に陥る可能性もあることから、対応に悩まれるのではないかと思います。

上記2のような過去の裁判例から、ご相談いただいた企業様に沿った整理解雇の段取り等もアドバイスさせていただくこともできますので、対応に悩まれる場合は、千瑞穂法律事務所にお気軽にご相談ください。